朋也たちのパーティーは三獣使の最後の1頭(3頭?)オメガキマイラとの戦闘に突入した。
「もうぉ、通せんぼはなしって言ってるでしょぉー!? さっさと退きなさぁーい! トリニティィ!!」
手早く片付けようと、マーヤが強力な全体攻撃魔法を唱える。ところが、オメガキマイラは強力な魔法を食らってもピンピンしていた。
「クカカカカッ、ばかメ! 我ラニ3属性魔法ハ効カン!!」
どうやら、3頭それぞれが3属性魔法の1つを吸収し、HPを再配分したらしい。これでは、マーヤの手持ちの3属性系魔法はどれも使えない。
アメジストやターコイズ等の種族属性魔法も同様だった。3頭のどれかが強い耐性を持ち、ダメージを相殺してしまうのだ。
「ダイヤモンド!!」
リルケが試しに無属性魔法を放った。ジェネシスに次ぐ威力のある全体攻撃魔法だが、たいして効いた様子はない。やはりクローン三獣使は魔法防御を大幅に強化されている模様だ。
「モウオシマイカ? デハ、今度ハコチラノ番ダ。おめがぱわー解放!!」
α、β、γの3頭が分離し、中心に3属性のエネルギーを集約させる。次の瞬間、3色の波動が4人を襲った。威力も属性の特徴もほぼトリニティに近い。しかも、マーヤのそれに匹敵するレベルだ。
魔法に弱い朋也はがっつりHPを削られてしまった。マーヤがセラピーで仲間を回復させる。
「しょうがないわねぇ……こいつ相手に2回も彼女を煩わせるのは気がひけるんだけどぉ……マリエルゥ!!」
マーヤが行使したのは霊体となった元妖精長の力を借りる召喚魔法だった。
莫大なMPとTP(溜め)を必要とするものの、召喚魔法の威力は絶大だ。術者のステータスにもよるが、ダメージ量はジェネシスと遜色ないし、状態異常付加効果を合わせると使い勝手はジェネシス以上だ。
オリジナルのオメガキマイラはマリエルの命を奪った仇敵であり、6年前のレゴラス神殿での対戦ではこの召喚魔法でオリジナルを撃破した。いわば彼女自身の力を借りて仇を討ったのだ。
光の中から姿を現した半透明の妖精マリエルが美しい羽を羽ばたかせながら頭上からオメガキマイラを見下ろす。彼女の両手が光を放ち、交錯する。
雲上のフューリーのフロアでピンク色の光が爆発する。朋也たちも、遠巻きに戦いの様子をながめていた外野の妖精たちもみな身を伏せた。
光が収まってみると、オメガキマイラはさっきと同じ姿勢でそこに立っていた。驚いたことに、ほぼ無傷に近い。
「!? そんなバカな!!」
朋也は愕然として叫んだ。
「てれーぜ様ハれごらすデノおりじなるトオマエタチトノ戦闘記録ヲ詳細ニ解析シ、我ラヲ複製スル際ニ活カシタノダ。3属性同様、妖精属性攻撃ハ我ラニハ無効ダ。クカカカカ」
3つの顔が哄笑する。
「てれーぜ様ニ楯突ク愚カ者ハ死ネ! おめがぱわー解放!!」
再び強力な全体攻撃を食らう。セラピー1回では回復が追い着かなくなってきた。反乱の首謀者である妖精長との対決の前に、これ以上の消耗戦は避けなければならない。
「3体が分離したタイミングで、1体に物理攻撃を集中させて確実に仕留めるっきゃニャイわね」
「いいだろう。下の2体はガードが固い。上のαを狙うぞ。コウモリのやつは回避率が高いが、オメガパワーの態勢に入った時に動きが止まるからな」
「そこもあたいが言おうと思ってたのに!」
4人は役割分担を決めた。朋也が最前衛でガード。マーヤが後衛から牽制攻撃。要の攻撃役となるミオとリルケは、オメガキマイラが三位一体攻撃に入るタイミングを見計らい、精神を集中させる。
回復を犠牲にするので、タイミングをしくじったら命取りになる。心配なのは、犬猿(猫烏)の仲の2人がうまく連携を決められるかだが……。
「五月雨射ちぃーっ!」
おそらくオメガパワーの発動には、ダメージの蓄積やMP消費等によって加算されていく一定のTPが必要なはずだ。勝敗はそこを見極められるかどうかにかかっている。ミオが頭の中で計算を始めた。
オメガキマイラはコウモリの吸血攻撃・モグラの岩石落とし・トドのフリッパリングなど3体が多彩な技を放ってくる。仲間たちに被害が及ばないよう朋也が1人で何とか凌ぐが、さすがにきつい。
3体の攻撃に間ができた。ミオが素早くリルケに目配せする。
「ソロソロ終ワリニシヨウ。おめ──」
3体の連結が解けた瞬間、ネコ族とカラス族の必殺技が炸裂した。
「九生衝!!」
「無影突!!」
防御力、HPとも一番低いアルファキマイラの翼手はビリビリに引き裂かれ、本体もズタボロの雑巾と化す。
残る2頭も火属性中心の攻撃であっさり撃破できた。
「お疲れ様ぁ~。やるじゃなぁ~い、2人ともぉ♪」
「ばっちり息が合ってたじゃないか」
「誰が鳥の足ニャンかと!」
朋也とマーヤが2人を誉めそやした途端、ミオが不機嫌になる。
「予行なしだろうと相手が誰であろうと、必要とあらばコンビネーション攻撃もきっちり決めるのが実力というものだ。まあだが──」
リルケはリルケで、相変わらず仏頂面のままとりすました声で言った。最後にチラッとミオの方を見やる。
「私に遅れずについてこれたのは褒めてやろう」
「あんたのペースに合わせてやったのよっ!!」