ここ妖精の国フューリーの最上階にある管理塔で、神獣キマイラより反乱鎮圧の命を受けた朋也たち4人と、上級妖精から成る反乱軍の戦いの火蓋が切って落とされた。両軍の筆頭は前妖精長マーヤと現妖精長テレーゼだ。
6年前にディーヴァたちと戦ったときに比べ、敵陣の妖精の数は少なかった。アニムスの塔でのアルテマウエポンと化したマーヤとの戦いにおいて、霊獣シヴァの自爆攻撃に巻き込まれるなどして多くが命を落としたのが大きな原因だろう。
とはいえ、束になって襲いかかってくる妖精はなめてかかると痛い目に遭う。HPが低いので通常攻撃1、2撃で倒せるが、回避率と魔力の高さが曲者だ。さらに、妖精族のスキルにはステータス異常を伴うものが多く、数を重ねられるとあっという間にパーティーが全滅しかねない。
幸い、今度のパーティーの面子は対妖精戦向きだった。ミオもリルケも敏捷性で妖精たちと互角にわたり合える。マーヤにはSクラス以下の妖精のステータス攻撃はまったく効かないし、ダメージもほとんど受けない。朋也自身はマーヤほどではないが、彼女とパートナーの関係になってからかなり耐性がついた……と思う。
となると、厄介なのはやはりテレーゼ本人だ。今のところ、アルテマウエポンの能力を発動している様子はないが。
ネコ属性と烏属性はどちらも妖精族に対する効力が高いため、ミオとリルケは妖精の兵士たちを次々に撃破していく。しかし、戦闘不能になってもテレーゼがすぐ回復してしまう。数の差が圧倒的なだけに、長期戦になると不利は否めない。
以前ディーヴァと戦った際も同じような状況だったが、あの時は霊体となったマリエルが妖精たちをパニック状態に陥れて回復不能にさせた。だが、彼女はさっきオメガキマイラと戦った時に1度召喚してしまった。召喚魔法は1日2度が限度で、2回目は威力が落ちてコスパが下がってしまう。
「よおし、こうなったらあたしがマリエルの技に挑戦してみるわぁ! フェアリー・ファシネーション!!」
マーヤは大きな羽を広げて管理塔の中央付近に浮かび上がると、チョウやガの鱗粉のような光の粒子を撒き散らした。
「あなたたち、おいたはやめておねんねしてなさぁーい♪」
戦っていた妖精たちの手から弓矢が落ちる。彼女たちはその場にへなへなとくずおれ、深い睡眠に陥った。テレーゼのセラピーももはや効果がない。命令に従っているだけの部下の妖精たちをこれ以上傷つけずにすむのは、朋也としても気が楽になる。
「すごいや、マーヤ。妖精長の鑑だな」
「エヘヘェ♪ まあ、あたしも少しはマリエルに近づけたかもぉ」
朋也が誉めそやすと、彼女は照れくさそうに微笑んだ。実力的には今のマーヤの方が彼女の敬愛する先代の妖精長を凌駕しているに違いないが、謙遜するところが彼女らしい。
テレーゼはマーヤをきっとにらみつけた。
「あなたにも同じ思いを味わわせてあげましょう。アルテマウエポン・プログラム・リロード。エマージェンシー・レベル3!」
金色の羽が一段と輝きを増す。標的にされたのは朋也たち3人だった。それにしても、いきなりすっ飛ばしてレベル3とは。
「やばい、例のあれが来るわよ! チビスケ、ニャンとかしニャさい!!」
一度経験済みのミオが鋭く警告の声を発する。
「ちょ、ちょっと待ってぇ! あたしも心の準備がぁ~~(--;;」
キマイラには自らの意思で制御可能だと教えられたとはいえ、やはりまだ躊躇があるのだろう。彼女がもたついている間に、テレーゼは一番危険な技を発動してしまった。
「テンプテーション!!」
テレーゼが全身から光をほとばしらせる。まるで夢でお告げを出す仏像みたいなイメージだ。
「私の目を見なさい! そして、わが僕となるのです!!」
彼女は自信に満ちた笑みを浮かべながら、朋也たちの方に近づいてきた。
「あわわわぁ~、スイッチの入れ方自分で忘れちゃったぁ~! どうしよぉどうしよぉ~(--;;」
……。彼女はたまに病院でもポカをやらかすことがある。朋也やAHTのみんなでカバーできる範囲だが。だが、今回は深刻だ。
「もう間に合わニャイ! みんニャ、目をつぶるのよ!!」
パーティーがピンク色のもやに包まれる寸前、ミオが叫んだ。だが、手遅れだった。
「くっ……! な、なんだこれは!? 腕に力が入らん!」
最初に術中にはまったのは、予想外にもリルケだった。
「ニャにやってんのよ、バカ鳥の足! あっ、しまったニャ! 自分も目開けちゃった(--;;」
続いてミオも。アルテマウエポンのテンプテーションは五感に作用するので、目をつぶったくらいでは防げなかっただろうが。
せっかくマーヤがリーダー以外の反乱軍を無力化したのに、これでは帳消しだ。
「うわあぁぁ~~ん! ここはあたしが何とかする手はずだったのに、みんなテンプテーションにかかっちゃったよぉ~~!」