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 街道に出て村からだいぶ離れたところで、朋也とクルルはやっと一息ついた。
「やれやれ、ひどい目に遭ったな」
「クルル、タンコブできたよ~(T_T)」
 やっぱりガードしきれなかったか。タンコブくらいで済んでよかったけど。
 2人は路傍の石に腰掛け、クルル手製のビスケットを食べながら一休みした。彼女のビスケットの味にはだいぶ慣れたけど、お茶くらい欲しいと思う朋也だった。
 一服してから、2人は改めて相談に入った。
「さて……クルルはどの街に住みたい? 俺はクルルが気に入ったとこならどこでもいいよ」
「ビスタにしよっか。あそこなら前にクルルが勤めてた酒場のマスターの顔も利くし、リハビリセンターにはマーヤもいるから、安心して住めるんじゃない?」
 なるほど、2人とも身1つで何も持ち合わせてないことを考えると、マーヤたち知己がいる方が新生活を始めるうえでも好都合だ。場所もここから近いし、大陸の西側ではそれなりに大きな街で利便性もいいし。朋也は彼女の提案に乗った。
「そうだね。よし、じゃあさっそくビスタへ向かおう」
 そういうわけで、2人は南へ向けて街道を歩き出した。叢に身を潜めながら尾行する者たちの存在にも気づかずに……。

 ユフラファを出発したのが朝だったので、正午前にはビスタの城門に到着した。
 2人はまずマーヤのいるリハビリセンターを尋ねた。彼女は一連の功績が認められて所長になったと聞いている。〝影の所長〟と言われつつもヒラのCクラスだったのだから、まさに大躍進だ。
 受付で尋ねると、あいにく彼女は妖精の国フューリーへ出張中とのことだった。2、3日は戻ってこないという。残念だが、日を改めるしかあるまい。
 続いて2人が向かったのは、街の北側にある酒場だ。そこは朋也とクルルが初めて出会った記念すべき場所でもあった。
 マスターには結婚式の招待状は送ったのだが、あいにく当日都合がつかず、祝電だけ送ってくれた。
「マスター、元気にしてるかな? ちょうど結婚の報告もできてよかったよね!」
 そんなことを話しながら、入口のある半地下への階段を降りていく。スイング式のドアを開けて店内に入ると、酒場はこの間より客が多く賑わっていた。アルバイトのウェイター/ウェイトレスも増やしたようだ。カウンターで作業しているアライグマ族のマスターの姿が目に入る。
「あ、いたいた! マスター、ひさしぶ──」
 声をかけようとしたそのときだった。
「ちょっと待ちな! そこのお2人さんよ……」
 入口のすぐ近くの席に座っていた3人のイヌ族の男に呼びとめられる。そういえば、前のときもベスの配下で働いていたイヌ族のゴロツキたちにクルルがからまれたんだっけ……。
「な、なんだ、お前たちは!? 文句があるのか? クルルには指1本触れさせないぞ!」
 クルルを守らなければと思い立ち上がった朋也だが、少し腰が引けている。冒険の旅で戦い慣れたとはいえ、この手のトラブルは苦手だ……。
「あんちゃん、ちょっとツラ貸してくれねえか?」
「え……お、俺の方?」
 朋也は戸惑い気味に聞き返した。なんにしろ、イヌ族に因縁をつけられる心当たりはないんだが。
 と……3人はマスクとフードを取って正体を現した。イヌ族でも、男でもない、ウサギ族の女の子たちだった。
「そう♪ ユフラファまで一緒に来てほしいの♥」
「へ、変装してたのか!?」
 3人のウサギ族の子は座席からピョンと勢いよく跳びはね、朋也に襲いかかってきた。1人は大きな麻袋まで用意している……。
「バニーステージ!!」
 クルルが混乱ステータススキルを発動するが、今回は運悪く3人ともかかってくれない。
朋也は2人の女の子に左右から挟まれた。相手はモンスターでもゴロツキでもないただの一般市民の、しかも若い女の子だ。か弱くは全然ないかもしれないが。それでも、こちらから物理攻撃を仕掛けるのはどうしても気が引けるため、朋也は何とか2人の攻撃をかわそうとした。
「マス──ふが!」
 店主に助けを求めようとしたクルルだが、もう1人の女の子に口を塞がれてしまう。酒場の喧騒もあり、マスターはなかなかこちらの異常事態に気づいてくれない。
 とうとう朋也は1人に腕を決められ、もう1人に麻袋を被せられかけた。
「チップ!!」
 隙をついて後ろの女の子の手を振りほどくと、クルルは大技を繰り出した。魔法の金貨を生じさせ雨霰と浴びせる全体攻撃だ。ダメージは所持鉱石の総額によって決まる。今2人はほとんど持ち金ゼロに等しかったため、実質的なダメージは与えないはずだったが。
 店中を満たす光と音に、ようやく客たちも気づいてこちらを振り向く。マスターが大声を出した。
「おい、そこ! 店の中で暴れないでくれ! マナーを守れない奴は外で飲んだらいかん!」
 3人の女の子の注意が逸れた隙に、朋也はクルルの腕を掴んで出口に向けて走った。
「逃げるぞ、クルル!!」
「う、うん」
 結局2人はマスターに挨拶する間もなく、ほうほうの体でビスタの街を後にした。


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