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 街からだいぶ離れたところで、2人はやっと休息した。膝に手を置き、肩で息をしながら朋也が口にする。
「シエナにまで追っ手が来ていたとは。それにしてもタフだな、あの娘たち(--;; これ以上逃げきれるかどうか……」
 そんな朋也をクルルが上目遣いにジロリとにらんだ。
「朋也……ひょっとして、エシャロットさんとなら暮らしてもいいかもとか思ってない!?」
「お、思ってないってば! そ、それより、今度はどこへ向かおうか? もう住めそうな場所がだんだんなくなってきた感じだけど……」
 朋也が尋ねると、クルルは少し思案してから答えた。
「ちょっと遠いけど、ポートグレイはどうかな? 2人で新婚旅行に行った思い出の街だし。クフフ♥」
「そうだな。むしろ遠くのほうが返ってよさそうだ。さすがにあの娘たちも、砂漠を越えて大陸の端まで俺たちを追っかけてはこないだろ」
 その考えが甘かったことをいずれ2人は思い知らされることになるのだが……。
 大陸の東の端の海岸に位置するポートグレイまでの距離は500キロあり、しかも間には広大な砂漠が横たわっている。徒歩で出かけようとするのはさすがに無謀だ。
 そういうわけで、朋也たちはまず移動手段を確保するため、シエナの北にあるオーギュスト博士の館に向かうことにした。
 そこには3台の自走車が停めてあり、朋也たちのパーティーが砂漠を横断するのに使っていた。そもそも発明したのはBSEのモンスターだったウシ族とそのロボットだったが。
 館にたどり着き、ガレージに停めてあるBSE号3台を確認する。オーギュストのロボット・ウシモフが律儀に整備作業をしてくれており、走行に問題はなさそうだ。
「ちなみに、ここに住むっていうのは──」
「クルル、オバケ屋敷に住むなんて、家賃がタダでも絶対やだよ!」
 そう言うだろうと思ったけど……。
「じゃあ、行こうか」
「うん!」
 朋也は3台のうちサイドカーが片側に付いた2人乗用のエメラルド号に彼女を乗せると、東を指して発進させた。
 どこまでも砂漠の広がる道なき道をひた走る。左手の北側にはイゾルデの塔、右手の南側にはイヌ族の崇めるピラミッドが、砂塵のけぶる地平線の上にかすかに見える。
 エメラルド号なら、最大速度を出せば半日かからずにポートグレイに着ける。だが、朋也はそこまで飛ばすことはせず、鼻歌混じりにハンドルを握りながらドライブ気分を楽しんだ。ポートグレイには日暮れまでに到着できればいい。何より安心なのは、さしものタフなユフラファ娘たちもこれ以上はもう追い着けっこないということだ。
 やがて、東の海岸線に青い筋、すなわち海が見えてきた。ボチボチつき始めたポートグレイの街灯りも。この街は海にまで迫る砂漠の大きなオアシスといっていい。
「さあ、着いたよ♪」
「やったあ! 朋也、お疲れさま♥」
 ほっぺに軽く口付けしてから、クルルはピョンとサイドカーを飛び降り、うーんと背伸びをした。
 潮騒が規則正しいリズムを運んでくる。9日前まで新婚旅行で2人が滞在した街なので新鮮味はないが、いつ訪れてもこの街には海の懐に抱かれているような安心感、日常の喧騒から離れた解放感がある。
 沖縄を思わせるヤシやハイビスカスの並ぶ並木道を2人がぶらぶらと歩いていたときだった。背後から聞き憶えのある声が彼らを呼び止めた。
「ちょいと待った、そこのお2人さんよ!」


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