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27F 森の悪夢




 フィルと一緒に暮らし始めて早5年が過ぎようとしていた。彼女と畑仕事に精を出していると、時が経つのをついつい忘れてしまう。都会の喧騒から遠く離れたこの山の中で聞こえてくるのは、鳥や虫の声と風にそよぐ木の葉のささやきだけだ。ときには、このまま自分が溶けて、森の一部に同化してしまいそうな気持ちになる。時間は大地に合わせてゆったりと流れていた──

「そろそろお昼にする?」
 腰を伸ばしてううんと背伸びをし、真新しい土をかぶった畝を見渡してから、朋也はフィルの呼びかけに答えた。
「そうだね。春野菜の種付けはひととおり終わったし。いったん帰って食事にしよっか♪」
 フィルは笑みをうかべてうなずいた。5年経っても、彼女の微笑みは変わらず、決して見飽きることなく、自分を幸せな気持ちにしてくれる。朋也自身も不思議に思うのだが。
 2人は肩を並べて畑から家へ向かう小路を歩いていった。
「う……!」
 不意にフィルが足を止め、顔をゆがませた。
「ん? どうしたの、フィル?」
 フィルは返事をすることもできず、意識を失ってその場に崩れ落ちた。
「フィル!? フィル!!」
 朋也はすぐに駆け寄り、頬を軽くたたいてみるが、意識が回復する様子はまったくない。とりあえず彼女を抱き上げ、自宅のベットまで運んでいった。


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