めくるめく閃光と轟音が収まったところで、朋也はうっすらと目を開いた。
そこは森の中にぽっかりと開けた広場だった。足元には焼け焦げた地面が横たわっている。
「ここは……神木の広場だった焼け跡か……」
そういえば、2つの世界を結ぶゲートを安定させるには特殊な条件を満たす必要があり、それ故にレゴラスから遠く離れたクレメインの森に設置せざるをえなかったと、以前神獣キマイラ自身が言っていた。神木の影響がまだ残っているのではないかと、朋也は若干不安に駆られたものの、ともかく一刻も早く森を抜けてキマイラのいるレゴラスを目指すしかない。
「俺が戻るまで辛抱していてくれよ、フィル……」
手にしたフルートをまた懐にしまうと、朋也は早足で歩き出した。5年前の記憶をたどりつつ、森の出口へ向かう小径を探す。
広大なクレメインの森は地形が複雑なうえ、中心から放射状に伸びる道と同心円上に取り巻く道が縦横に走っており、しかも都市の整然とした道と違って曲がりくねったり分岐したりしているものだから、一度入ったら外へ出るのは簡単なことではない。5年前だって、フィルが朋也たちの案内をしてくれなかったら倍以上の日数がかかったろう。
朋也はしばらく手間取った後、ようやく以前通った覚えのある場所にやってきた。目の前を川が流れており、その上に吊り橋が架かっている。そこは5年前に朋也たちがエデンへやってきたとき、初めてゲドと遭遇し、ジュディが川に転落して九死に一生の目に遭った場所だった。
橋を渡って川の向こう岸に着いた朋也は、そこで不快なものを目にした。竹やぶのようなバリケードが道に横たわり、通行を阻んでいる。神木自身は焼け死んだものの、クレメインの森の植物の少なくとも一部はまだその制御下にあるのだろう。あるいは、神木は両世界の植物同士で次元を越えた意思疎通が可能なようなことも口にしていたので、彼の命令に従って朋也が神獣に接触するのを阻止する気なのかもしれない。
バリケードの下から昆虫の足を思わせる節の付いた枝がわさわさと朋也の方に向かって伸びてきた。
「くそ、ここで俺を足止めさせるつもりなのか!? こんなところでグズグズしているわけにはいかないのに!」
神木の杖は本来樹族でない朋也にもそのスキルを使用可能にしたとても重宝な武器だったが、焼却してしまった。代わりに朋也が持ってきたのは、前回の冒険で入手した杖の中でランクの1番高いホウの杖だ。そこそこ攻撃力があり、回復のスキルも使用できる。朋也はホウの杖で襲いかかる枝を次々なぎ払った。
だが、やはり通常攻撃だけでは多勢に無勢で歯が立たない。朋也はどんどん後退を余儀なくされ、吊り橋の渡り口まで追い詰められた。
そのとき、ピンク色の閃光が爆発した。路上の竹のバリケードが一気に侵食され、丈が半分以下になる。昆虫属性の魔法ガーネットだ。
穴だらけになった緑の壁の向こうに馴染みのある顔が見えた。
「朋也ぁ~っ、大丈夫ぅ~っ!?」
「マーヤ!? いったいどうして!?」
驚きと同時に、旧友と再会できた喜びで、朋也は思わず声が裏返ってしまった。
「話はあとあとぉー。さっさと雑草さんを退治しちゃいましょぉっ!」