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 不意打ちを食らって司令塔のミオを一時戦闘不能状態にされたものの、彼女が復活してしまえばこっちのもの、新たな助っ人の登場もあり、戦いはあっという間に決着がついた。
「牙狼っ!!」
 ジュディ(?)が最後まで残っていた胞子嚢を必殺技で雲散霧消させる。イヌ族の剣技中最高難度の奥義まで会得しているとは。少なくとも、剣士としての腕は本物のジュディに負けず確かなようだ。
「すごいな、牙狼まで使えるなんて」
「まだ確実にものにできたとまではいえないのですが」
 朋也が手放しで賞賛すると、ジュディ(?)ははにかんで笑みを浮かべた。
「雑魚相手にスキルの無駄遣いだけどね……」
 ミオはまたボソッと不平を漏らしたけど。
「危ないところを助けてくれてありがとう。ええっと、その……ジュディ……」
 朋也は改めて頭を下げた。その呼び名にはどうしても違和感がぬぐえなかったが。
「いえいえ。エデンの市民として困った同胞を助けるのは当然のことですから」
 ジュディ(?)は剣を鞘に収めながら、謙遜して答えた。顔には得意げな表情がありありとうかがえたが。そんな彼女の風貌を観察しながら、朋也は肝腎の疑問に話を向けた。
「実は俺たち、君と同じ名前で、髪の色も同じで、顔も君によく似たイヌ族を知ってるんだ。だから、ちょっとびっくりしちゃったよ」
 それに対する彼女の反応は意外なものだった。
「そうでしたか! 道理で〝師匠〟のことをご存知だったわけだ。〝師匠〟のお知り合いとは! こうしてお会いできてますます光栄です♪」
「〝師匠〟? あのジュディのこと? 彼女に剣を教わるか何かしたのかい? いつどこで?」
 5年前の冒険のときそんな余裕はまったくなかったはずだが。イヌ族の街ダリにも1泊しか滞在しなかったし。
「ああ、いえ、直接指導を賜ったわけじゃないんですけど……」
 そこで彼女は少しバツが悪そうに答えた。
「何しろ、ジュディさんといえば、ご主人のために神獣や神木と戦ったボクたちイヌ族にとって伝説の英雄ですから。ダリの街で彼女の名を知らない同族はいません。5年前彼女の存在を知ったときから、ボクは一流の剣士、モンスターハンターを目指し、彼女を〝師〟に見立てて剣術に励み続けたんです。それで、彼女にあやかって改名して、髪の色も同じに染めたんです♪ 自称も『ボク』にしてみました♪」
 なるほど、ようやく合点がいった。ジュディが一族の有名人になっていたのは予想外の顛末だったけど。彼女は雑種ながらジュディにとても近い系統に違いないが、よく見るとやはり顔立ちが微妙に本人と違う。周りが暗すぎてそっくりに見えたのもあるだろう。
「どうでしょう……ジュディさんっぽい雰囲気出てるでしょうか?」
 そう尋ねたジュディに、ミオが眉をへの字にしながら勧めた。
「バカイヌっぽさが丸出しだから、やめといたほうがいいわよ」
「こうして出会ったのも何かのご縁ですし、ぜひみなさんの護衛を務めさせてください! ボク自身の修行にもなりますので」
「聞いてニャイし……」
 ミオが呆れ顔で言う。ちょっととんちんかんなところもあるが、根がいい娘であるのは間違いない。朋也は二つ返事で了承した。
「ああ、こちらからもぜひお願いするよ」
 それから、一行は食事と野宿の支度をしながら、彼女にジュディ本人の話を聞かせてやった。ジュディは夢中になって耳を傾けた。ただ、ミオが〝バカイヌ〟の悪口ばかり言うものだから、彼女とは喧嘩になりかけた。
 ともあれ、これで帰ったらジュディと千里にいいお土産ができたな……。


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