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11 ジュディの決意




 目の前に扉が見えてきた。後二十メートルもない。
 前を歩くジュディの背中からは、かつてないほどの緊張が感じ取れる。
 ダリの街で仕入れた情報によると、神獣とのコンタクトを望む者は、そこで自分の心をすべてさらけだすことになるという。その試練が具体的にどういうものかは、ついに突き止められなかった。わかったのは、挑戦者一人一人に対し、まったく別のシチュエーションが用意されるということだけ。
 要するに、すべてはジュディ次第ってことだ。俺もレナードと同じように、ひたすら彼女の力を信じるしかない。
 廊下の突き当たりは若干幅が広くなっていた。正面中央に扉がある。神獣がいるのはこの向こうだ。
 ジュディが扉の前に立つと、まるで空港でのセキュリティチェックみたいに、赤いレーザーが彼女の全身を走査した。
 扉が重い音を立ててゆっくりと開き始める。
 ジュディの後に従い、俺も遺跡の中心部に足を踏み入れた。
 ここに来るまでに通過した三つの従者の部屋より格段に広い、巨大なピラミッド型の空間がそこにあった。
 斜度の緩い階段が中央に向かって伸び、その上で緑色の光が明滅している。さっきから聞こえていた鼓動のような音と合わせるように。
 俺たち二人はゆっくりと階段を上っていった。
 てっぺんに着くと、そこは平らになっており、中央で微細な光片が渦を巻きながら舞っていた。一時として同じ形に見えない、七色に輝く光でできた結晶。あれが、超エネルギー生命体である守護神獣なのか……。
「トウヤはここで待ってて」
 種族の異なる俺は、これ以上先へは近づくことすらできない。
「我、風すさぶ荒野を駆け、群れの友愛と臭跡を追う忍耐とを尊び、満てる月の夕べに唱ず者にして、気高き狩人の眷属なり……ここに我との契りを求めん!」
 守護神獣の封印を解くための、イヌ族の証を立てる朗々たる詠唱が、広間中に響き渡る。
 と、光が徐々にその明るさを増し始め、ついには目を開けていられないほどになった。

──汝の吾子たる証、我に示せ──

 人ならぬ者の声がした。
 祭壇の間いっぱいに拡散した光の粒が、再び一点に集まり、次第にあるものの形を取り始める。人だ。
 光と音が静まったとき、俺は驚愕に目を見張った。
 そこに立っていたのは、ほかでもない成瀬結莉だった。
 ジュディがかすれた声でつぶやく。
「お……ねえ……ちゃん!?」

──汝の意志をもて我に応えよ──

 結莉が手を掲げると、そのてのひらにいくつもの光の球が躍った。回転する火の玉が、ジュディめがけて襲いかかる。
「危ない、ジュディ!!」
「くっ!」
 かろうじて手で防いだものの、足元がよろめく。
 結莉は次々に光弾を産み出しては、ジュディに向けて撃ってきた。
「何やってんだ、ジュディ!? 早く攻撃しろ! わかってるだろ、あれは結莉じゃない! 神獣が作り出した幻だ!!」
 ジュディは後ろを振り返った。いやいやをするように首を振り、震える声で言う。
「違う……違うんだ……わかるんだよ……姿も、声も、匂いも、何から何まで、本物のおねえちゃんそっくりなんだ……いや、違う……おねえちゃんなんだ!!」
 両の目から涙があふれだす。いままで会いたくても会いたくてもずっと我慢してきた、心の奥底にその願いをずっと押し込めてきた最愛の人を前にして、ジュディはいま、なすすべもなくがっくりと膝をついた。



 守護神獣が挑戦者の心を試すとは、こういうことだったのか……。
 俺じゃ結莉にかなわないことはわかっていた。ショックでないと言えば嘘になるけど。
 でも、これではあんまりだ。ジュディに、自分の心を殺せと言っているようなものだ。
「でき……ない……ボクには……」
 結莉はひときわ大きな光球を作り出した。
 その光の球はフワリと宙に浮かぶと、ブルブルと震動し始め、その中から幾本もの雷の矢が発射された。
「ジュディ──ッ!!」
 駆け寄ろうとするが、イヌ族でない俺は見えない壁に阻まれ、跳ね返されてしまう。
 無数の雷がジュディめがけて降り注いだ。

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