突如として豪華な宮殿のような建物が出現したさっきは、立体映像じゃないかと思ったけれど、スニッター・パレスはやっぱり本物だった。俺たちが閉じこめられていたのはその地下だ。実際には、ミオがお魚ちゃんの目を欺き、犬神の力が及ばないところにかくまってくれていたのだが。
一階のホールのような大広間に出る。広間をとりまく壁に沿って、らせん階段が上階に向かって伸びている。スニッターがいるのはこの上か。
ホールを横切って駆け出そうとしたとき、どこからかけたたましい笑い声が響いた。お魚ちゃんだ。
「キャハハハハッ、今度は裏切り者ご一行様のお出ましねん。スニッター様ったら、あたいがお姉さまは何か企んでるから気をつけろって注意してあげたのに、ほっとけって取り合わニャイのよ。失礼しちゃうと思わニャイ? しゃくだから、あニャたたちのことうんとじゃましてあげるわね♪ がんばって上まで登ってらっしゃい♥」
いったん途絶えてからまた彼女の声。
「そうそう、言い忘れてたけど、ダンディ真っ黒ちゃんあての訂正情報があるのん。あニャたの大事ニャご主人様だけど、あたいたちの仲間にするってのは間違いで、スニッター様が実験材料にするんですって。ごめんニャさいねん♥」
「なんだと!?」
「マジかよ!?」
「みんな、急がないと悠美が……」
お魚ちゃんの宣告に一同が戦慄していたとき、不意に四方の壁がせり上がった。ぽっかりと口を開けたいくつもの真っ暗な通路の奥で、何かのうごめく気配がする。
はいずり出てきたのは、表面が半透明のくすんだ緑色やピンク色をした不定形のかたまりだった。無脊椎動物の一種にも、内臓のようにも見える。ホラーアドベンチャーゲームに登場するゾンビばりの怪物だが、モニターの外へは決して出てこない空想上のモンスターとは迫力が段違いだ。
「いやあああっ!! 何よあれ、もう!」
「気持ち悪いですぅ!」
さすがに女の子二人が悲鳴をあげた。
「おい、ミオ! 何なんだ、あのバケモノは!?」
「もともとここで保管されてた研究材料をもとにスニッターがこしらえたんでしょう。大丈夫よ、あいつらニャら」
それから、ジェイクたちに向かって叫ぶ。
「さあ、三獣使! ここが腕の見せどころよ!」
「心得た!」
ジェイクが猛然と突っこみ、次々と怪物たちをなぎ払っていく。テツとファルコもそれぞれの剣を手に、勇んで戦いの輪に飛びこんでいった。
自分も何か武器でも持ってりゃなあ……と歯がゆい思いを抱きつつ、ハラハラしながら三人の戦いぶりを見守る。
その俺のそばで、美由が手足を振り回し、飛び跳ねるようにしてファルコに声援を送っていた。
「いっけぇ、ファルコォ! そこだぁ! いまだ必殺ぅ! 電光パンチィ!」
それを見ていた拓也がニヤニヤしながら小声でささやく。
「ありゃあ、電光パンチっつうより丸見えパンツだな」
「アホ」
佳世が彼の額にチョップをお見舞いする。
「で、何色だった?」
「白に決まってるでしょ! じゃなくて、ヒロくんもそんなこと聞かないの!」
アホなやりとりをしていた俺たち三人に向かって、ミオが促す。
「ホラ、あんたたちもぼさっとしてニャイで手伝って」
「え? 手伝うって何を?」
「あれご覧ニャさい」
彼女があごで示すほうを見やると、不思議にも、さっきまで両手で持ち上げるのも大変だった大剣を、いまのファルコはいとも軽々と振り回している。剣の輝きも一段と増していた。
「絆の剣の強さはね、想いの強さに比例するの。あんたたちのエールが、あの子たちを強化することにニャるのよ」
それを聞いて、拓也が美由に負けじとテツに向かって声を張り上げる。佳世も。
「よし、行け、テツ! 負けるな! 電光パンチだ!」
「きゃーっ、ジェイクがんばってーっ! そんなザコモン、蹴散らしちゃえーっ!」
とりあえず俺は状況に応じてまんべんなく三人を応援することに。エールの効果でジェイクたちの動きが格段によくなったのがわかる。
だが、怪物たちは後から後からわいて出てくる。このままじゃきりがない。
「上に上がるわよ! みんニャ、続いて!」