「きゃああっ!! 何すんのよっ!?」
弾みで千里はスタンガンを手から離してしまった。暴れ回るが、ゲドの腕は千里の胴を脇に抱えたままびくともしない。しまった!! 成熟形態のイヌ族の身体能力を見くびっていたことを朋也は後悔した。彼女の落としたスタンガンを拾おうと身を乗り出す。ジュディも猛然とゲドに跳びかかろうとダッシュした。
そのとき、ゲドはもう一方の手に持っていたナイフを振りかざし、吊り橋の綱の1本を断ち切った。
足元がグラリと揺れる。吊り橋を支えている綱が連鎖反応を起こしたように次々と千切れていく。既に朋也たち成人3人(宙に浮いているマーヤは勘定に入れないとして)+成犬1匹分の重量にゲドを加えただけで橋の荷重限界ギリギリだったのだろう。
マーヤと最後尾にいたフィルは難を免れたものの、朋也とジュディの身体は分解した踏み板とともに落ち始めた。朋也は間一髪で垂れ下がった綱の1本にしがみついた。そして、すぐ隣を落ちていくジュディの肢を掴もうと腕を精一杯伸ばす。
だが、彼の手は届かず空を切った。ジュディの身体はそのまま谷底めがけて落下していった。
「ジュディィーーッ!!」
朋也と千里がほぼ同時に叫ぶ。
朋也がはっと振り仰ぐと、その千里を肩に担ぎ上げたゲドが、崩れる吊り橋を一気に駆け抜けて対岸にたどり着いたところだった。ゲドは脇目も振らずそのまま元来た方向へと逃走していく。
「ジュディィィーーーーッ!!!」
千里の悲痛な叫び声だけを残し、2人の姿は見えなくなった。
くそっ、なんてこった!! 身体中の血が沸騰しそうだったが、今の朋也は吊り橋の残骸にかろうじてぶら下がっている状態で、拳を振り上げることすらできない。
ひとまず冷静になるよう自分に言い聞かせる。なんとか向こう岸までたどり着かないと。自分の位置と両側の崖との距離を目測する。千里とゲドの走り去った側、森の出口に向かうほうが近い。ブランコの要領で身体を揺らし、吊り橋の残骸から垂れ下がった綱へ次々に飛びついて渡っていく。途中で綱が切れたら敢えなく一巻の終わりだ。なるべく下を見ないようにする。それにしても、こんなところでターザンの真似をする羽目になるなんて。
どうにか対岸の崖にたどり着くと、朋也は膝に手をつきながら荒い息を吐いた。一息入れたいところだが、今は休む時間も惜しい。事態は一刻の猶予も許されない。
朋也は千里の連れさらわれた方角とジュディの落ちた谷底を見比べた。2人を同時に救うことは不可能だ──