パーティに新たにミャウを加えて一行は追跡行を再開したものの、太陽は今しも地平線下に没しなんとしていた。
千里を誘拐され沈鬱なムードの漂っていたパーティの中で、ミャウは1人浮いていた。ジュディは相変わらず彼女を無視し続けている。マーヤとフィルにはミャウの方が関心を払わない。2人とはあまりウマが合いそうには見えないが……。
彼女は朋也の横に並び、時折彼のスキルを検査するような質問を発したり、鼻歌を歌ったりして、焦っている様子は微塵もない。会ったことがないとはいえ、少しは千里のことを心配してくれてもいいのに……。まあ、彼女の言うとおり、実際千里の身にそれほど危険がないなら結構なことだが。
一緒に話していると、ミャウがとても頭の回転の速い女の子だとすぐにわかる。答えたくないことはさりげなくかわし、決して顔色を表には出さない。マーヤとは逆のタイプだ。
それでも、彼女の朋也に対する態度は明け透けで、とても会ったばかりとは思えなかった。不思議なことに、朋也自身も初対面のような気がまったくしなかった。そのうえ、彼女に対する好奇心が自分の中で否が応にも膨らんでいくのに気づく。彼女も向こうの世界からの移民なんだろうか? だとしたら、どの辺りに棲んでいたのだろう? 飼い主はどんな人だったのかな? こんなときに他の女の子とおしゃべりにふけるのも千里に悪い気がして、いま口に出して訊くのは控えたが。ジュディの目も光ってるし……。
千里を無事に救出して、ミャウの仕事を手伝う段になったら、彼女ももっといろんなことを打ち明けてくれるようになるだろう。神獣が目覚める2週間のうちに両方片付くといいけど……。
ついでにどうでもいいことだが、彼女の話すときに「な」が「ニャ」になるのは一体どうしてなんだろうか? エデンの翻訳機構に関する謎がまた1つ増えてしまった。
下りの坂道が終わり、再び平地の木立の中に入って間もなくして、ミャウが音を上げた。
「ふにゃ~、ニャンか足が棒みたくニャッてきたニャ~。もうそろそろ日も暮れるし、今日はここらで休憩にしニャ~イ?」
さもくたびれたとばかりに提案する。まだ一緒に歩きだして30分経ってないぞ?
「あたしも賛成ぇ~。同じく足が棒ですぅー」
マーヤも同調する。君、歩いてないだろ……。
とはいえ、辺りはもう真っ暗に近く、移動に差し障るのは明らかだった。森を抜けることはできても、ビスタに到着するには1、2時間歩くだけじゃすまない。
「ご主人サマの命がかかってるんだ! こんなとこで休んでなんかいられるかっ!」
ジュディが真っ向から反対意見を表明する。
「あんたね~、夜通し捜索行を続けるニャンて無理に決まってるでしょ!? 目星はついてるんだからいいじゃニャイの? 大体、夜中にビスタに着いたって何もできやしニャイわ。それに、そいつらだって千里の命を獲りゃしニャイわよ。ま、貞操のほうは保証しニャイけどニャ~♪」
……。そんなこと言ったら逆効果だろ。
「貴ッ様ァ~!!!」
剣を抜きかけたので、あわててジュディをなだめにかかる。
ミャウは今度は朋也に目を向けた。
「さて、バカイヌはああ言ってるけど、あんたはどうニャのよ?」