こいつらほんとにニンゲンのゴロツキみたいだな。あの子を助けたいのはやまやまだが、かといって下手に動くとこっちの身元がばれてしまうし……。誰か何とかしてくれないもんかな?
「こ、こら、マーヤ! 降りろってば! 前が見えないだろ!?」
マスターが困った顔をしながらグラスを拭くのをやめ、問題客をたしなめようとしたそのとき、カチャンとグラスを置く音とともにカラス族の女性が立ち上がった。静まった他の客たちの視線を浴びつつ、つかつかと後ろの座席のほうへ歩み寄る。
「な、何だァ!? 文句あんの──ひっ!」
スピッツの鼻先にサーベルの剣先が突きつけられ、黒い鼻吻から赤い血の雫が滴った。一瞬の出来事で、誰の目にも止まらなかった。
怯えきった表情で見上げるイヌ族のゴロツキを冷ややかな目で見据えながら、カラス族の女は言い放った。
「お前たちはニンゲンどもがエデンに持ち込んたゴミか?」
「なんだと、貴様ァ!?」
残る2人が懐の剣を抜きかかる。が、威勢ばかりで明らかに腰が引けているのがわかった。あのスピードに太刀打ちできるとは誰も考えないだろう。
「ああ……お客さん、店内でトラブルは勘弁してくださいよぉ」
店主の仲裁は彼らにとっては救いの綱だったに違いない。
「ちっ、覚えてろ!」
捨て台詞を残すと、3人のイヌ族は転がるように店を出ていった。
「あ、ありがとう、お姉さん」
ウェイトレスの娘のお礼の言葉も無視して、カラス族の女はカウンターのほうに戻ってきた。だが、途中朋也の前まで来て、ピタリと立ち止まる。
彼女の射抜くような冷たい視線は真っすぐ彼に向けられていた。今の一連の出来事に気圧されて声も出ない。冷や汗がどっと吹き出る。
な、なんかマズイことやったかな? 困ったことに、マーヤが相変わらずしがみついてて席も離れられないし……。
「お前はどこの種族の者だ?」
いちばん怖れていた質問だった。まさかカラスに疑いの目を向けられるとは。彼女たち鳥族は成熟形態になっても嗅覚はそれほど鋭くないはずだが……。
「言え。どこの種族だ?」
有無を言わせぬ態度で迫る。右手はサーベルの柄にかかったままだ。なんて答えよう!?