「ありがとよ。話のわかるやつで助かったぜ」
トラはもう一度チラッとゲドの様子をうかがうと、今度は朋也の目を見ながら話を続けた。
「あいつはな、あっちでイカレた白衣どもに松果体の破壊実験とやらに使われてたのさ。俺がこっちで初めて出会ったときはもっと手がつけられなかったよ。リハビリもまったく効かず、妖精たちも収容施設の一室で拘束しておくしかなかった。それを俺がむりやり引き取って、仕事を与えてやったんだ。少しずつよくなってはいるんだが……。神殿の修復作業が山詰を迎えてこのところかまってやれなかったし、ある件で怒鳴りつけちまったこともあってな」
クルルとジュディは、事情がよく飲み込めなかったらしく、困惑した表情でトラと朋也の顔を交互に見つめるばかりだった。トラの、そして2人の視線が、朋也には痛かった。マーヤは、自身の受け持ちでなかったにしろ責任を感じたのか、自分からゲドのところへ真っすぐ飛んでいき話しかけてやっている。さっき我先に空中へ退避したのは彼女だったけど……。
「さて、お前さんがこの村に来た理由は大体察しがついてる。俺に会いに来たんだろ? 悪いが、今日はもうあいつを連れて引き揚げなくちゃならん。こんな時間だし、片付けにゃいかん仕事が山のように残ってるんでな。4日後には神殿のこけら落としだし、その後にはオルドロイの火の釜でフェニックスに生贄を捧げる儀式が待っている──」
ショックなことが続いて感覚が麻痺してきた朋也の頭に、トラの宣告が容赦なく追い討ちをかける。
「今、何て言ったんだ? 生贄だって!? まさか……」
「おい、ご主人サマをどうするつもりなんだ!?」
ジュディも我に返り、トラにつかみかかった。だが、あっけなく朋也のところまで跳ね飛ばされてしまう。
「うわっ!!」
彼女を助け起こしながら、トラに再度尋ねる。
「千里を生贄にするってのか!? 一体どういうことなんだ!? 説明してくれ!!」
「朋也。確かにお前さんには一宿一飯……いや、それ以上の恩義がある。だが、いまのお前さんにそいつを教えるわけにはいかんな。どうしても聞きたいというのなら、力ずくで俺の口を割ってみせることだ」
隻眼の眼光が鋭さを増す。その威圧感は、繁華街を闊歩する不良の比ではなかった。
「さあ、俺を凶悪なモンスターだと思ってかかってこいや」