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ミオ: -
千里: +
ジュディ: +
マーヤ: -
クルル: -

「仕方がない……おまえと戦いたくなんかないけど、千里をみすみす殺させるわけにはいかない!!」
 トラ……ご飯のときも、若くてトロい子に順番を譲ってやるような、ネコにしては本当に奇特なやつだった。それだけに、朋也にとっても、ミオと近所付き合いのあるネコたちの中で彼には特別な愛着があった。その彼が、よりによって千里の命を奪おうとする敵になってしまうなんて……。
「どうした、兄ちゃん。びびってんのか? 何だったらハンデをくれてやってもいいぜ? 向こうにいたときとは正反対の立場にいるわけだからな。こっちは腕1本で相手してやる」
 動こうとしない朋也に、トラが余裕の笑みを浮かべて挑発する。
 彼のことを凶悪なモンスターとみなすことなんてできっこない。闘いたくなんかない。かといって、千里を失うわけにもいかなかった。
 左手の甲に傘爪を装着し、全身の神経を張り詰めさせる。彼が正真正銘のネコ族のオスだったら、きっと全身が総毛立って見えたことだろう。改めてトラとにらみ合う。見上げるような巨躯、それが決して見掛け倒しでないことを示す引き締まった筋肉──隻眼の眼光に射すくめられると、自分が哀れなドブネズミになったような気さえしてくる。勝ち目があるとは思えなかった。
 だが、返って朋也は気が楽になった。目的は勝つことじゃない。自分の大切な友人を返してもらうことだ。全力で挑んで、彼にそれを解ってもらう必要がある。たとえボロボロに打ち負かされても。
 2人はじりじりと間合いを測っていたが、朋也の方から打って出た。ミャウ──いや、ミオだったか──やブブと闘ったとき以上にスキルは上がっているはずだが、トラに数段劣ることは明々白々だった。何とか懐に飛び込もうとするが、彼は大地に吸い付くような足さばきで、音もなくひらりと身をかわす。身体の大きさからは想像のつかない身の軽さだ。朋也の攻撃は毛皮の先をかすめることすらできない。
 ブブのときとは立場が完全に逆転していた。まさに彼の警告したとおり、朋也は赤子をひねるように一方的にやられていた。まともにボディを食らい、がっくりと膝を折る。
「なんだ、もう終わりなのか? おい、そこのイヌの若いの。お前さんも一緒にかかってこいや。2人まとめて相手になってやるぜ」
 まるで歯が立たず一方的に朋也がやられているのを焦れったそうに場外で見守っていたジュディに、トラが声をかける。
「くっそぉ、ご主人サマを殺されてたまるかっ!!」
 彼女も意を決して、剣を振り上げ突っ込んでいく。だが、彼女の剣のスキルも、トラの前では朋也と大差がなかった。
 息を荒げる2人に対し、トラのほうは呼吸1つ乱れていない。同時に2人の相手をしながら、本気を出してさえなかったのだろう。誠意を伝える以前に、自分があまりに非力すぎることを朋也は痛感した。
「まあ、命の瀬戸際に立たされたことのないお前さんに、両方の世界で死線を潜り抜けてきた俺と互角に闘えといっても無理な話かもしれんがな……。儀式が行われるのは、4日後にある皆既月食の始まる時刻だ。彼女を本気で取り戻したいと思ってるんなら、それまでに出直して来いや。期限までに神殿に来れば、もう一度相手をしてやる」
 ゲドに肩を貸して立ち去りかける。広場を出る前に、トラは思い出したように朋也を振り返った。
「……朋也、1つ忠告しておくぞ。お前さんとこの仔猫ちゃんにゃ十分気をつけたほうがいい」
 続けて〝仔猫ちゃん〟の方を向く。
「そうそう……ミオ、お前さんにもいいことを教えといてやる。カイトがこっちに来てるぜ」
「カイトが……」
 そっとその名を口ずさむ。
「また会おうぜ」
 そう言い残すと、村の門に向かって歩いていく。2人の背中は押し迫る夕闇に溶け込むように見えなくなった──


※ ゲーム上ではミオとジュディのどちらの好感度が高いかにより自動判定。
ミオ    ジュディ

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