千里： ＋
ジュディ： ＋＋
マーヤ： －－
クルル： －－
確実性を考慮すれば、ミオの案が一番理に適っている。他の３人もそれなりに知恵を絞ってくれたのはわかってるけど（ジュディのは知恵とは言いがたいかもしれないが）、朋也の選択は決まっていた。やっぱり彼女は頼りになるな。
ジュディは「ミオには点が甘い！」と最後までぶつくさ不平を言ってたが、ミオの提案はモンスター相手の戦闘訓練の要素も高いのだから、内容的にはそれほど不満はあるまい。
必要な鉱石を効率よく集めるには、ただ片っ端からモンスターをやっつければいいというものではない。机の上にビスタで購入したマップを広げ、どの地点にどんなモンスターが多いか検討しつつコースを練る。
特に必要な鉱石は５人の守護鉱石、アメジスト、トパーズ、ガーネット、オパールの４種類。それと、オルドロイ周辺のモンスターがよく使用してくるというルビー（威力を緩和するのが目的だ）、弱点となるサファイア。サファイア属性はネコ族、すなわちトラの弱点でもある。ミオと朋也も耐性が低いが、彼の方が使ってくることはないはずだ。サファイアを使えるのはマーヤとクルルだけだが、大目に用意しておくに越したことはない。もちろん、その他の鉱石も、特に希少価値のあるものはアイテム購入用に収集する意味はある。
オルドロイへ抜けるモルグル地峡からクレメインの森にかけて広がるテレッサ平原一帯にはトパーズを落とすモンスターが多かった。ジュディが主戦力であることを考えると好都合といえる。サファイアはルネ湖周辺に出没するモンスターが所持しているため、彼らは地下牢から地下水路に入って侵入してくるモンスター退治に精を出した。これで村の人たちにも宿泊費用の分くらい借りを返せたことになるかもしれない。ミオと朋也のスキルアップに必要なアメジストを落とすモンスターは残念ながら少なかったが、モルグル地峡に比較的多いらしいので、当日余裕をもって出発してかき集めることにした。
３日目、鉱石もだいぶ集まったところで、朋也とミオはアイテムと交換するためにビスタの街へ出かけた。天気もよく、草原をわたる風が肌に心地よかった。
考えてみれば、〝ミオ〟と２人きりでゆっくり過ごす時間を持ったのはエデンに来て以来初めてだった。彼女はあまりしゃべる気がないらしく、２人はほとんど会話を交わすこともなかった。朋也のほうはときどきチラチラと彼女の横顔を観察しながら、いま何考えてるんだろうなあ……と頭をめぐらせていた。
そう、それは、モノスフィアでの日々と何も変わらない彼の日常だった。スーパーに買物に行ったり、ただブラッと散歩に出かけるとき、いつもミオはひょっこり現れて彼の横を並んで歩いた。彼女の気まぐれがもつまでの間。そんなときにいつも、この子はいまどんなこと考えてんだろ？ 周りの景色……直前に通った同類やイヌの匂い……今晩のおかず……それとも、俺のこと？ あるいはもっと他の、ニンゲンにはうかがい知ることのできない彼女たちだけの秘密？ なんてことをぼんやり考えたものだ。
そうやって一緒に歩く時間が、朋也は好きだった。たまにぼおっとしすぎて道端でつまづいたり、電信柱にぶつかりそうになり、彼女に白い目でチラッと見られることもあったけど……。
いま、エデンに来て成熟形態になったミオは、向こうにいるときとは比較にならないほどいろんな思考が頭の中を渦巻いているんだろう。自分の知らない秘密もたくさん抱えているに違いない。視線が合うと、彼女は言葉を発するでもなく、興味深げに口をすぼめて彼を見返す。そういうときの彼女には、なんだか心を全部見透かされてるような気分になり、頭を掻きながら下を向くしかない朋也だった。
(注)ビスタの街に到着すると、ミオの後に付いて裏通りに入っていく。アイテム屋、武具屋を回り、最後に通りの奥に面する鍛冶屋の戸をくぐる。エデンじゃ非合法の商品なんて売ってないはずだが、印象はそれに近い。鍛冶屋では鉱石を使って集中的にプラクティスを加え、大幅な能力アップを施すことができる。
店主に装備を渡して改造を待っている間、ミオは店内にいたどことなく胡散臭いキツネ族の男に声をかけた。
「調子はどう？ ニャかニャか手入れの効いたナイフじゃニャイ♥」
ミオにおだてられ、そいつは愛想よく世間話を始めた。お調子者らしい。聞いたところでは、彼はモンスターハンターを商売にしているとか。ミオは続いてさりげなくいろんな情報を聞き出しにかかった。彼は鉱石を多く持っているモンスターの穴場など、同業者には教えられない商売上の秘密に当たりそうなことまで気前よくペラペラしゃべりまくった。
「アリガト、ハンターさん♪ 幸運を祈ってるわ♥」
謝礼代わりの投げキッスを送り朋也のそばに戻る。キツネはデレデレしながらミオの後ろ姿を見送っていた。
う～む、ミオは異種族の男までメロメロにするほどの魅力の持ち主なのかなあ？ 俺ってひょっとして罪深い育ての親だったり──
なんて朋也が考えていると、ミオは残りの装備の改造をやめにして彼と連れ立って店を出た。こっそり朋也に耳打ちする。
「今のあれは３流だニャ。きっと早死にするよ」
……。確かにそんな気はするけど。
「ま、ともかく耳寄りの情報が手に入ったわ。ユフラファの北のルネ湖の中央にある島に、でかいオパールを持ったモンスターがいるらしいの。今から戻って支度すると夜にニャッちゃうけど、もちろん行くわよね？」
「俺たち２人でかい？ みんなは？」
「内緒に決まってるわよ。どうするの？」
(注）：ゲーム上では、朋也がビスタの街でミオの指示に従い踊りを演じるミニゲームに。
