「ともかく、駄目なものは駄目だ! やっぱり危険すぎる! 千里は帰った方がいい。俺、責任持てないし……」
朋也は強情に言い張った。が、千里も負けずに言い返す。
「別にあんたに責任取れなんて言ってないでしょっ!? 大体、ジュディを置いて自分だけとっとと帰れるわけないじゃないの!! いいわ、別にあんたの許可なんか得なくたって自分の行動は自分で決めるわ! なんと言われようと私は残りますからねっ!!」
プイと後ろを向く。こうなると、もう朋也の手には負えなかった。本当に頑固なんだから……。
彼が大きくため息を吐いて頭を抱えていると、千里が向き直り穏やかな口調で改めて請願した。
「ねぇ、朋也……そんな冷たいこと言わないでよ。私たち、今この世界でたった2人のニンゲンなんだから、さ……」
朋也はあきらめたようにうなずいた。確かに、ジュディと千里をいま引き離すのは酷というものだろう。
「わかったよ……。俺も今度みたいなことが起きないように出来る限りのことするけど、お前も自分の身はちゃんと自分で護ってくれよ? それと、危ない真似はやらかすなよな!?」
「任せなさい♪ ジュディと自分の身は護ってみせるから! でも、それはお互い様だからね?」
千里はそう言いながら胸をたたいて見せた。
大丈夫かな? 大体、ゲドにさらわれたんだって、ジュディをかばってでしゃばりすぎたからなのに。まあ、強力な魔法を撃てるようになった分、心配が減ったのは確かだけど。
「あのね、朋也。私……」
千里は急にしおらしい態度になり、顔を赤らめてうつむいた。
朋也がキョトンとして続きを待っていると、不意に後ろのほうでかすかに物音がした。
「あら、ジュディ?」
「え?」
千里が声をかけると同時に、パタパタという足音が遠ざかる。朋也が振り返ったのは、誰かが廊下の向こうに消える寸前だった。最後にチラッと見えたのはフサフサしたグレーの尻尾。
「どうしたんだろ? おかしなやつだな」
彼女の去ったほうに目をやりながら首をかしげる。
「……あの子、もしかして朋也のこと好きになったんじゃ……」
同じように誰もいなくなった廊下を見ながら、千里が小声でささやいた。朋也はびっくりして彼女を振り返った。
「ええっ!? まさか! ここまでの道中、ジュディにゃずっとどやされっぱなしだったんだぜ!?」
「さあ、どうかしらね……」
朋也の顔をしかつめらしくじぃーっと見ながら先を続ける。
「口で怒ってるように聞こえても、本当はそうじゃないのかもよ? なまじ言葉をしゃべれるようになった分、そちらに気を取られがちでしょうけど。あの子、素直じゃないとこあるけど、嘘は吐けないタイプだし……彼女のホントの気持ちが知りたかったら、顔や言葉ばかりじゃなく尻尾もよく観察してみることね」
「そ、そんなもんか?」
朋也はもう一度ジュディが駆けていったほうに目を向けた。