千里とジュディはどうせ一緒にいるに違いない。むしろ2人水入らずのところを邪魔しない方がいい。マーヤとミオの2人もしっかりしているから平気だろう。誰のことが一番心配かといえば、やっぱりクルルだった。
彼女の場合は本当に災難という他はない。ユフラファへの道すがら、「世の中は毎日少しずつよくなっていくに違いない」とあんなに希望に満ちた目で語っていた彼女が、村の人口の半分が殺された現場に居合わせるなんて、何という皮肉だろう。たまたまビスタの酒場で出会ったのをきっかけに、こんなところまで付き合わせてしまったことを、朋也は激しく後悔していた。彼女を連れてこなければ、村人が人柱になるのを防げたわけじゃないが……。
広い神殿の中を駆け巡りながら、1つ1つの部屋を見て回る。だが、彼女の姿は見えない。おっかしいな、どこ行っちゃったんだろ?
次第に不安が募る。まさか変なこと考えたりしないよな?
神殿の上層部を一通り見て回った後、朋也は昇降機に乗った。いるとすれば後はあの場所だけだが……。いくらモンスターが影を潜めて魔法の緩衝壁も張られているとしても、あそこは危険なのに。
昇降機が止まるや、飛び降りて駆け出す。頼むから早まった真似はしないでくれよ?
いた。ウサギたちの待機していた大部屋のあった場所──虐殺のあった現場に、2本の長い耳を生やした女の子の影。
クルルは魂の抜けたような表情で、ぽっかり空いた壁から見える、煮えたぎるマグマの海を食い入るように見つめていた。空ろな瞳に真っ赤に焼けた溶岩の光が照り返している。
朋也は廊下の手前まで来て歩調を緩めた。下手に驚かせると返って危険な気がしたからだ。
クルルは朋也が来たのに気づいて耳をクルリと回し、続いて振り返った。ハッと軽く息を呑むと、顔を背ける。
「クルル、そこから動いちゃ駄目だぞ?」
そっとなだめるように声をかけ、ゆっくり1歩ずつ足を繰り出す。
「来ないでよっ!」
彼女がヒステリックに叫ぶ。ヤバイと思った朋也は一気にダッシュして彼女に近づくと、片腕を掴んで多少強引にでも引き寄せた。
「クルル!」
「離してっ!!」
涙に濡れた目で朋也をにらみつけながら腕から逃れようとする。腕力でかなわないと知ると、今度は前歯をむき出して噛み付きかけた。彼女の歯って結構凶器だよな。さっくりやられたら出血大サービス間違いなしだぞ? それでも、絶対離す気はなかったけれど。
「クルル……」
威嚇にも動じずにいると、彼女はやっと身体の緊張を緩めた。震える声で話しだす。
「……クルル、楽観的なウサギだから、ずっと信じてたんだ……世の中はきっとだんだんいい方向へ向かってるんだって……。ひとびとが殺し合ったり、争い合うのをやめて、誰かが苦しんだり、辛い思いをすることもなくなって、みんなが幸せになれる日がいつかきっと来るに違いないって。でも……もう何も信じられない!!」
再び身を振りほどこうともがき始める。ともかく何とかして彼女の気を鎮めなきゃ──