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ミオ: ++

 朋也は近くの岩の上に腰を下ろすと、うなだれて両手を見つめた。
 ……向こうの世界でも追跡ごっこをしたことがあったよな。ほとんど成功しなかったけど。よその庭先をこっそり通り抜けたり、生垣や藪の中に潜り込んだり、それはそれでスリルがあって楽しかったよな……。意外な場所で鉢合わせした時の、彼女のびっくりした表情は傑作だったな。結局見つからなくてがっくりしてたら、後ろからひょっこり現れて擦り寄ってきてくれたこともあったっけ……。
 俺って、やっぱり彼女の側にいる資格ないのかもしれないな……。彼女がどこで何をしようと彼女の自由じゃないか……でも──
 でも、俺、もっとミオのことが知りたい!!
 ひょっとして、こうしてる今もどこかからこっそり俺の様子をうかがってたりして……。
 朋也は素早く左右に首を巡らし、峠の両側にそそり立つ崖の斜面に目を走らせた。かすかな気配も察知しようと神経を研ぎ澄ませる。あっちの崖の裏側が何となくアヤシイ気がしたんだけど……。でも、やっぱり誰もいないようだ。
 よし、ともかくインレまで行こう! それでも見つからなきゃ、今回は俺の負けだ。
 再びエメラルド号にまたがると、朋也は峠の坂道を下っていった。

(ふう……危ニャイ、危ニャイ。うっかり見つかるとこだったニャ~)
 崖の上からこっそり朋也の様子をうかがっていたミオは、エメラルド号のテールランプが角を曲がって見えなくなると、ほっと胸をなで下ろした。自分もルビーに飛び乗り、急角度の崖を危うげもなく駆け降りていく。軽量でエメラルド号よりスピードが速く小回りも効くルビー号なら、先回りするのは容易い。
(さて、お手並み拝見といくかニャ♪)

 やっと峠を越し、眼前にテレッサ平原が広がる。時刻は午前4時を回っていた。東の空では大三角の一等星が輝きを競い合っている。  ここを通ってオルドロイ神殿に向かったのはほんの数日前にすぎないのに、ひどく懐かしい感じがする。この間にあまりに多くの出来事が起き、それだけ濃密な時間を送ってきたという証拠だろう。
 街道に入り再びスピードを上げて驀進する。前方にユフラファの灯りが見えてきた。インレに行くには途中のルネ湖そばの分かれ道で西に折れ、再度北上しなくてはならないが……。
 朋也はここで少し弱気になり、休んでいきたい誘惑に駆られた。どうしよう……ちょっぴりだけ村に寄って仮眠させてもらおうか?


*選択肢    休む    休まない

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