2人がびっくりしながら見ていると、光の中にぼんやりとヒトの姿が現れた。白いローブをまとった美しい女性だ。彼女は手招きするように腕を差し伸べた。
「……千里……朋也……」
朋也は警戒して千里をかばいながら身構えた。なんで俺たちの名前を知っているんだ?
「誰だっ!?」
「私は……イヴ……」
そこで千里がハッと気づいて声を上げる。
「!? あなた、もしかしてニンゲン!?」
「何だって!?」
確かに、彼女の耳は自分たちと同じヒト族のものだった。いろんな獣の種族の耳を見慣れてしまうと、返って違和感を覚えるくらいだ。
「でも、変だな? 封印が解かれて以来、エデンに足を踏み入れたニンゲンは俺たちが初めてだって聞いたけど……」
「あなたたちの言っていることはどちらも正しいわ。私はあなたたちと同じニンゲンです。そして……この170年の間に、ニンゲンの一族で新たにこの地を訪れた者はあなたたち以外にいません」
「どういうことだ??」
「……まさか、あなたは!?」
「そう、そのまさかよ。私は封印が解かれる前からここにいる……他でもない、紅玉の封印を解いたのは、この私です」
!!! 衝撃的な告白に、2人とも声を出すこともできなかった。イヴと名乗る女性は、千里を真っすぐ見つめて尋ねた。
「千里……あなた、強くなりたい? 神獣を倒せるほどに」
「……ええ」
しばしの沈黙の後、彼女はうなずいた。
「では、北にあるイゾルデの塔までいらっしゃい。塔の最上階に私はいます。そこでお2人が試練を乗り越えたなら、アニムスの封印をめぐる事の経緯をお話しします。そのうえで、あなたに力を授けましょう。待っていますよ」
そう言い残すと、イヴの姿は夜空に吸い込まれるように消えていった。本体は塔におり、魔法か何かの力で映像だけ送り込んできたのだろう。
しばらく2人で呆然と立ち尽くしていたが、千里が我に返ったようにボソッと一言口にする。
「……今のイヴって人、すっごくきれいな人だったね……」
*選択肢 きれいなんてもんじゃない そうでもない