朋也はジュディに向き直ると、優しく諭すように言った。
「なあ、ジュディ。このピラミッドはイヌ族の神様を祀る聖地で、謎解きは言ってみりゃお前たち一族の勇者の度量を測る検定試験みたいなもんなんだろ? それなら、俺が何から何まで指図してちゃ意味ないよ。まずジュディが自分の力で考えてごらん?」
「で、でも……」
「大丈夫、俺もできる限りサポートしてやるから。お前の手で千里を助けたいんだろ? だったら、頑張れ!」
「うん……わかった。ボク、やってみるよ!」
ジュディは笑顔でうなずいた。
左右の玄室のうち、ジュディはまず左側を選ぶことにした。(注1)入口の敷居をまたぐと、2人の頭の中で声が轟く。
≪かがり火を灯して死霊を退散せしめよ。灯を灯す位置によっては死霊が復活してしまうから心するように≫
目の前には碁盤目状の通路が並んでいる。目を凝らすと、通路のそれぞれにはイヌ族のミイラがおり、グルグル回ったり壁と壁の間を行ったり来たりしていた。こいつら、本物なのかな? 通路の間の柱には壁龕が穿たれ、それぞれに灯篭が置かれている。普通の炎ではなく鉱石の魔力で起こした灯りだ。手前のスイッチらしい弁をひねると光が消える仕組みになっているのか……。
ふと見やると、目の前にいたはずのミイラの人がいなくなっていた。もう一度ひねって灯りを点けると、またスーッと姿が現れる。
「どうやらこいつを使って、このアミダみたいな迷路を通り抜けろってことらしいな……」
「なんか面倒臭いね」
「まあ、そう言わずにやってみろよ」
ジュディはまず1つ灯りを消してミイラの消えた通路を通っては手近な灯りを消し、最短経路を進もうとした。だが、程なく袋小路に入ってしまう。手近な灯りを点けても消しても前後左右を通せんぼされて進むことも戻ることもできなくなってしまった。
こいつに触ったらきっと無理やり戦闘に入るよーなルールになってんだよな? 試しに隙を見て脇を通り抜けようとしたら、両手を振り上げダッシュで襲ってきた。
「このやろ~!」
ジュディが剣を抜いて反撃に出る。朋也も加勢し、なんとか倒すことができた。体力は高めだがそれほど手強い敵ではない。と、いきなり目の前が真っ暗になる。な、何だ!?
再び部屋が明るくなってみると、なんと2人はスタートラインに立っていた。おまけに、消したはずの灯りも全部復活してしまっている……。なるほど、失敗してミイラに触れると振り出しに戻っちゃうのか。片っ端からミイラを倒すという手は通用しないわけだ。
「え~、また最初からやんのぉ!?」
「ぼやかない、ぼやかない。やっぱり1列ずつ全部灯りを消してみて、どの灯を消したらどこのミイラが消えるのかチェックしながら進めたほうがいいんじゃないか?」
「ぼく、そんなに覚えられないよ」
「じゃあ、2人で半分ずつ分担しよう。お前はそっちの右側の2つな」
こうして、手間は増えるが慎重な方法を採用することにする。が、それでも一筋縄にはいかない。1つの灯りを消すごとに消えるミイラはどうやら2人いるが、他の灯りとバッティングすると復活するような仕組みになっているらしいのだ。
朋也たちはさらに2回振り出しに強制移動させられた後、ようやく〝アミダくじ通路〟の向こう側に出ることができた。一度挑戦しただけでもう懲り懲りだ……。(注2)
玄室の奥には大きな棺が置いてあった。進もうとしたとき、ガタッと音を立てて棺の蓋が開く。朋也は一瞬肝を冷やしてジュディの腕にしがみついてしまった。
「大丈夫だよ、モンスターじゃないんだから」
彼女は同族のミイラがウジャウジャいるところでも割と平気なようだ……。
蓋をどけて棺の中から起き上がったのは、重々しい甲冑を被った身の丈3メートル近くある大きな1つ目のイヌ族だった。右手には刃渡り1メートル以上ある大刀、左手には今出てきた棺の蓋を盾代わりに持っている。
「いやあ、よく寝たわい。あんまり長いこと棺に入っていたもんだから、身体の節々が痛うてかなわん。このまま誰も起こしに来ないのかと思っとったぞ……」
この玄室の主と思われるその巨犬は、腰を叩いて大きく伸びをすると、欠伸をかみ殺しつつ巨大な1つ目で訪問者をジロジロと検分した。
「! なんとまあ……久々にここまでたどり着いたのはどんなやつかと思えば、若いイヌ族とヒト族のアベックではないか!? そのような組合せの男女がこの地に訪れるのはこの170年間絶えてなかったことだ……。よろしい! 今日のわしは気分がいいから特別に易しい出題にしてやろう♪ さて、わしはカニアス=ウーの従者が1人、左の盾コボルトじゃ。これからお前さんたちに問題を出すぞ? ピラミッドの謎に挑む者よ、準備はよいかな?」
「う、うん……」
ジュディがゴクリと唾を飲み込む。
チャララ~~ン♪ どこからともなく軽快なBGMが流れてきた。ホントにクイズ番組のノリだな。
『問題。神獣が各種族に対する成熟形態への文明開化を進める以前の時代から、イヌ族とヒト族は緩やかな共同社会を形成していた。系統の離れた異種族であるヒト族とイヌ族が1つの社会を作るようになったのは、狩りの効率を高めるなどのメリットがあったからだろうといわれる。では、2つの種族が同じ群れで暮らし始めた当時、その関係はいかなるものであったか? 次のうちから選べ。
1.ヒトがイヌを利用していた。
2.イヌがヒトを利用していた。
3.お互いに利用し合っていた』
ジュディは一瞬救いを求めるようにチラッと朋也を見たが、彼は黙って首を振ると、顎をしゃくって自力で頑張るように促した。ちょっと考えた末、彼女はコボルトに向かって答えた。
「3番にするよ」(注3)
「なぜそう思うのかね?」
眉を吊り上げて選択の理由を尋ねる。
「一方的に利用するだけの関係だったら、きっと絆にまで深まらなかったと思うから……」
コボルトはしばらく彼女の答えを反芻するように黙り込んでいたが、今度は朋也に目を向ける。
「連れのニンゲンの方はその回答でよいか?」
(注1):ゲーム中では左右どちらからでも可。
(注2):クリアできずにピラミッドを出るとリタイヤ扱いになってしまう。
(注3):ジュディの好感度が一定値以上ないと、間違った回答をしてしまう。