「やった、倒したぞ!」
でも、マジで危機一髪だったな……。今頃になって足に震えが来る。
リルケの差し出した手をつかみ、穴の底から這い上がる。
彼女は不思議そうに自分を見つめながら尋ねた。
「今のは……何の技だ?」
「え? さあ? マグレ突き、かな?」
首をひねって考え込みながら、否定する。
「いや……今のは無影突だった。カラス族の、それも最高難度のスキルだぞ……」
「そ、そうなの?」
じゃあ、やっぱり〝マグレ突き〟には違いないな。
「お前は本当に不思議なやつだな……。異種族のスキルをコピーする能力でも備えているのか……」
自問とも他問ともつかぬ問いを発する。
「さあ。まあ確かに、ミオやジュディと同じスキルも少しは持ってるけど……。この傘も爪っぽくなったり剣みたくなったりするしね。マーヤに言わせりゃ、俺たちヒト族の守護神獣がいなくなっちまったからだろうって」
首をすくめて答える。
「だが、〝鍵の女〟のほうにはそんな力はないだろう?」
「ううん……まあでも、彼女は知ってのとおり魔法のエキスパートになっちまったからなあ」
朋也としては、わけのわからん能力よりそっちのほうがよっぽどうらやましい。
「……いずれにしても、キマイラがお前のことを恐れるわけだ」
キマイラが俺のことを恐れてるって?
「それで、俺を足止めしようとしたわけか……」
リルケはうなずいた。
「ミッションとしては成功だが、アントリオンへの対処を誤って子供を危険にさらしたのは私の落度だ。明白な計算ミスだった。危害を加えるつもりはなかったんだが……」
「危害にさらすつもりがなかったって!? たいした言い訳だな? お前らは人質をさらうような卑怯な真似しかできないのかよ!?」
「こうでもしなければ、お前はレゴラスへ行くのをあきらめなかっただろう?」
1拍置いてから仮定の質問をしてみる。
「そうとは限らないぜ? ミオはお前の芝居だって見抜いてたからな。俺が子供を見捨てる可能性だってあるだろ?」
「……お前が必ず来るのはわかっていた」
「それも〝計算〟か?」
「いや……」
リルケは朋也の目を真っすぐ見て言った。
「信じていた」
朋也は返す言葉に詰まってしまった。オルドロイの1夜での会話を思い出す。あのときに比べりゃたいした進展だ。今更和解してももう手遅れだけど……。
サイドカーのシートで2人の会話をキョトンとして見ていた男の子のほうに目をやりながらつぶやく。
「……この子を早く母親のところへ連れてかなきゃ」
「頼む」
「後でお魚ちゃんに土下座してこいよな!」
「そうだな……」
ネコ族の子をサイドカーに乗せて連れて帰ろうと声をかける。
「じゃあ、ボク、お母さんのところに帰ろうか」
すると、彼は急に駄々をこねだした。
「やだ! お姉ちゃん、ぼくを護ってくれたから、一緒に帰る!!」