ミオたち4人が船内で朋也を発見したとき、彼女たちは声も出ず口をパクパクさせるばかりだった。空を飛んできたんだと言っても信用してくれない。しまいには幽霊じゃないかと疑い出す始末だ……。別に幽霊のふりをしてもよかったんだが、クルルが泣き出しかけたので、朋也はあわててリルケに運んできてもらうまでの顛末を説明した。彼女と和解した部分については、みんなは、特にミオは半信半疑だったが。ともあれ、朋也が抜けたことでパーティー内にはよっぽど沈鬱な空気が流れていたとみえ、彼の復帰によってみんなの顔が見違えるほど明るくなったのがわかった。やっぱり彼女に船まで連れてきてもらって正解だったな。
一行はレゴラスに到着する1時間前に起き出した。他の乗客が寝静まっている間に身支度を整える。まだ胃のほうが起きていなかったが、無理やり朝食を流し込む。いよいよ神獣キマイラの居城に乗り込むのかと思うと、それだけで食欲なんてまるでなくなってしまう。だが、ジュディを連れて帰るまでもう食事にはありつけない。彼女を連れ帰れなければ、これが最後の食事ということになる。最後のメニューはクルルのビスケットだったが、こんなにうまかったのか!? と思うほど美味しく感じられ、朋也はよく噛み締めて味わって食べた。
デッキの上に上がってみると、ひんやりとした海上の風が頬を刺す。深閑とした大気は、今日が特別な皆既日食の日であることを承知しているかの如く、緊張感に満ち溢れていた。船首から孤島レゴラスを望む。日の出前のうっすらと赤みを帯び始めた東の空を右手に、シルエットとなって浮かび上がる島が目に入った。神殿らしい建物も見える。地上に出ている部分はそれほど大きくない。オルドロイ神殿のように地下につながっているんだろうか。気の所為か、神殿の建物の周りが蜃気楼のようにユラユラと揺らいで見える。
船はついにレゴラスの埠頭に接岸した。下船したのはパーティーの5人だけだった。他のツアー客たちは朝食の時間までゆっくり寝ているつもりなんだろう。左手にはすぐ近くに観光客向けと思われる施設が並んでいたが、朋也たちには用がなかった。目指すは島の中央にある神殿そのものだ。彼らは真っすぐそちらへ向かっていった。
神殿への歩道は石造りのアーチが等間隔に立ち並び、両脇を色とりどりの花が絨毯のように埋め尽くしていた。自分たちを引っ立てにすぐにも妖精の警備隊が押し寄せてくるんじゃないかと思ったが、奇妙なことに迎えが来る様子はない。それどころか、神殿の周辺には人っ子1人いなかった。
「変ねぇ、いつもはレゴラス派の子たちがわんさか暇つぶしに来てるのにぃ。やっぱり今日は特別体制なのかしらぁ?」
マーヤが首をかしげて言う。……いつもは暇なのか?
アーチが途切れ、神殿の入口前の広場に出る。と、誰かが手前の階段のところにうずくまるようにして倒れていた。無数の黒い羽が辺りに散らばっている──リルケだ!!
「リルケ! どうした!?」
朋也はあわてて駆け寄ると、彼女を膝の上に抱き起こした。ひどい出血だった。羽が折られてもう飛ぶこともできない有様だ。
「……う……うう……」
うめき声をあげる。意識はまだあるようだ。
「朋……也……来たのか……カ……イト……が……」
「カイトがどうしたって!? お、おい!?」
リルケはそこで気を失った。
「マーヤ、頼む! ヒーリングを!!」
マーヤが応じようとしたとき、ミオが鋭い声で制止した。
「バカニャこと言わニャイで! その女は敵ニャのよ!? 回復させて障害を増やしてどうするつもりニャの!?」
「じゃあ、手当てもせずにこのまま放置しろっていうのか!?」
思わず声が上擦ってしまう。トラやベスの最期のことが脳裏に浮かび、冷静に頭を働かせることができない。
「レゴラスの妖精が救援にくるでしょ……」
ミオはそう言うと目を背けた。
「そんなのいつやってくるか……」
「朋也……冷たいこと言うようだけど、私たちもう時間がないのよ!?」
白みかけた東の空を見上げながら、千里が焦燥の色を露にして訴える。
「私たちが苦労してここまでやってきたのは何のため? ジュディを助けるためじゃないの!? あの子を連れ去ったのは一体誰なのよっ!?」
激しい口調でぐったりしているリルケの顔をにらみつけるとプイと横を向く。