ジュディはアニムスの塔の裏側にあった扉から中に足を踏み入れてみて驚いた。塔の中には壁や天井がなく、外とはまた別の異空間が広がっていたからだ。あちこちに銀河や星雲が散らばり、まるで宇宙空間にでも放り出されたようだった。後ろを振り返ると、真っ暗な闇の中そこだけ四角く切り取ったかのように扉が見えるばかりだ。
上に向かって螺旋状に伸びる階段を見上げる。神殿の最上階ほど高くはない位置にこの塔のてっぺんにあたるフロアがあり、赤い光が不規則に脈打ちながら光っている。そして、階段の中ほどには緑色の光に包まれて立つ人影が見えた。ミオだ……。
ジュディは彼女のいる場所まで階段を駆け上っていった。安堵していいはずなのに、胸のざわつきはますます大きく膨らんでいく。ミオ……お前が本心をずっと隠し続けてきたことくらい、ボクの鼻には見抜けなくはなかったさ。でも、本当に一体何をしでかすつもりなんだ!?
近くまで来て足を緩める。ミオは、手の中で強烈なグリーンの輝きを放つ宝玉を、魅入られるようにながめていた。ジュディはそこで立ち止まった。うっとりと呟く彼女の声が聞こえる。
「……これが、アニムス……キレイ……ニャンだか吸い込まれちゃいそう……」
「ミオ……何をやってるんだ? それはエメラルドのアニムスじゃないのか!? そんなもの持って、どうするつもりなんだ!?」
ミオはしばらく返事をしなかったが、やがてゆっくりとジュディのほうを振り向いてねめつけるように言った。
「……バカイヌ……あんたはいつもいつも、あたいの邪魔ばかりするのね。朋也の周りまでウロチョロして……」
鋭い眼光の奥にのぞく激しい敵意を前にして、ジュディは今こそ悟った。彼女は最初から、千里を助けるために朋也や自分たちとの旅に付き合ってきたわけではなかった。いや、それどころか、エデンにやってきたのさえ、明確にある目的を携えてのことだったのだ。実際にそれが何なのかは彼女にはわからなかったが、ひどく危険な匂いが感じ取れる──ベスやカイト以上に。彼女にアニムスを渡してはならない。さもないと、自分たちの棲んでいた世界が大変なことになってしまう……。
ジュディはミオから目を離さずに、ゆっくりと剣を引き抜いた。
「……お前は昔っからいけ好かない奴だったけど……それでも……ボク、友達だと思ってたよ……」
「おめでたいこと! あたいにとっては、あんたはいつもあの女のそばにいるただのやかましいイヌだわ……。邪魔する気ニャら消えてもらうわよ!!」
言うが否や、ミオは目にも止まらぬ速さで襲いかかってきた。ジュディは身構えていたのにその場を1歩も動くことができなかった。鋭い爪が首筋をかすめる。ぷっつりと切断された彼女の首輪が足元に落ちて転がった。
「あら、ハズしちゃったわ♪ 惜しかったニャ~、頚動脈をスパッといったら、いくら成熟形態のあんたでもあっさりお陀仏だったのに、残念♥」
ミオ……まさか本気でボクを殺すつもりなのか!? 頬から血を滴らせながら、愕然としてかつての幼なじみをマジマジと見つめる。
「朋也はお前のことずっと信じてたんだぞ!? それを裏切るなんて、許せないっ!!」
全身から闘気を迸らせ、ジュディは〝敵〟をにらみつけた。
「そう来なくっちゃ。あたい、前々からあんたのこと1度こてんぱんに伸してやりたかったのよね~♪ さあ、こっちも手加減しニャイわよ!」