「千里!!」
「ご主人サマッ!!」
2人して彼女に呼びかける。千里は苦しそうに面を上げ、こちらを見た。
「……と、朋也……ジュディ……」
「イヴ……最初っから俺たちを利用するつもりだったのか!? 俺にキマイラを倒させたのも、千里の魔力を高めたのも、全部自分がアニムスを手に入れる目的で……」
朋也たちが来ても素知らぬふうにアニムスと千里に神経を注いでいたイヴが、やっとこちらを振り返って言う。
「そのとおりよ、坊や……。あなたのおかげで、すべてシナリオどおりに事が運んだわ。本当にお礼の言葉もないくらい……」
「この野郎!! ご主人サマを一体どうするつもりだっ!?」
「そんなこと決まってるじゃない? 彼女の魔力を残らず注入して紅玉を完全に復活させ、アダムの創った世界を消去するのよ……」
何だって!? また170年前と同じ過ちを繰り返すつもりか!? イゾルデの塔で自分たちに示した慙愧の念さえ、演技だったっていうのか? またしてもだまされたことに強い怒りを覚えながらも、朋也は罵倒しても効果はあるまいと、やんわりと彼女を諭そうと試みた。
「頼む、イヴ……やめてくれ! 復讐なんて何の意味もないじゃないか!! アダムなんて男はもうどこにもいやしない! そいつはとっくの昔に死んだんだぞ!? もし、アダムが君のことを少しでも好きだったんなら、君を裏切ったことを後悔して、自責の念に苛まれながら死んでいったろう。そうでなければ、そもそも君が愛する価値もない男だったんだよ……。過ぎた昔のことなんか忘れて、これからのことを考えようよ!」
「朋也……あなたって本当に優しいのね。あの頃のアダムにも負けないくらい……」
イヴは目を細めて朋也をじっと見つめた。
「将来のこと? もちろん、考えてるわよ? 今、私の目の前にアダムの現身がいる……。しかも、あの男の醜悪な面は持ち合わせていない、まさに理想の男性が……。きっと、私への償いとしてアダムが遺していってくれたのね、フフフ……」
妖艶な笑みをその美貌に浮かべ、胸元を強調するように1歩ずつ朋也に向かって近づいてくる。
「私ね、アダムの世界を消し去ったら、力と叡智のアニムスの封印を2つとも解いて、今度は私自身の世界を創造するのよ。魔法も使えないような不完全な世界じゃない……そう、彼の創ったいびつな世界など及びもつかない世界をね……。3番目のサファイアのアニムスまではそろわないけれど、この娘の魔力をMAXにまで高めて補うことにしたから大丈夫よ、フフ……」
ついに彼女は朋也の前に立った。両手で彼の頬をそっと包み込み、視線をからめるように訴えてくる。
「ねえ、坊や……。一緒に新しい世界で暮らさない? あなたも不老不死の身体にしてあげる……。誰にも邪魔されず、2人だけの世界で、永遠に愛し合うの……。ね、素晴らしいでしょ? 朋也……」