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12 結莉




 体が鉛のように重い。ベッドからまったく出られない。
 そんな日がずっと続いた。
 学校にはもう何日も顔を出していない。
 朝の散歩も、いつも行かなきゃと思いつつ、母に任せる日が続いた。
 運動量が必要な子なのだから、本当は一時間でも二時間でも外ですごしたほうがいいのにと、自分を責めつつ。
 一日中部屋の中で、レナードの毛皮に顔をうずめて何時間も泣きつづけた。
 レナードはただじっと結莉の悲しみを受け止めてくれた。痛みと苦しみを分かち合ってくれた。
 そのことがまた、彼女を苦しめる。この子はカナダにいたほうが幸せだった。そのほうが、私の苦しみを押し付けられることもなかったろう。
 トウヤの葬式の翌日、彼の実家からジュディとミオはいなくなっていた。彼の両親はすっかり参ってしまって、イヌとネコを探しているどころではない。
 結莉は、近所の商店街や電柱に迷子探しの張り紙を出し、獣医や保健所に問い合わせ、自らも足を使って二匹の姿を探し回ったが、二匹は見つからなかった。
 トウヤになんか預けなかったら、ジュディは迷子にならずにすんだのに。
 そうやって彼に責任を被せようとする醜い自分が、ほんの少し心の中に残っていることで、ますます自分がいやになった。
 トウヤのせいじゃない。
 私のせいだ。
 ジュディがいなくなったのは私のせいだ。
 レナードに迷惑をかけているのも私のせいだ。
 トウヤは死んだ。
 それも私のせい? そのとおりだ。
 私が彼を殺したんだ。
 本当はもちろん、結莉とは何の関係もないことだ。トウヤは、彼にとっても自分にとっても赤の他人の少女と仔ネコを助けようとしただけだった。
 結莉には何の罪もない。
 そんな理屈はちっとも慰めにならなかった。彼女の心が受け付けることを拒否した。
 謝りたい。謝りたい。謝りたい。
 時計の針を巻き戻して、あの大ゲンカした日に戻って、彼にもう一度会って、謝って、お礼を言って、そして……次の日に絶対に駅に行かせないようにしたい。
 運命を変えたい。変えられるものなら。
 でも、起きてしまったことは、二度と変えられはしない。
 食事も咽喉を通らず、睡眠も満足にとれず、結莉はただひたすら泣き続け、そうして日増しにやつれていった。美しかった髪も、見る影もない。
 いまの彼女は冬を迎えた枯れ木のようだった。春になっても二度と芽吹くことのない。
 数日後、結莉は駅にいた。トウヤが事故に遭った駅。
 事故のあった痕跡はきれいに拭われていた。
 柱の根元に据えられた花瓶と花が、そこで悲劇が起きたことを示す唯一の証だった。
 その花も、行き交う人々も、結莉の目には入らなかった。
 パァ───ン!
 突然の警笛にビクッとすくみあがる。気がついたら、いつのまにかホームの端ギリギリの位置に立っていた。目の前を列車がかすめ、風圧によろける。
 結莉はペタンとその場にしゃがみこんだ。
 涙が両の目から滴り落ちる。
 死にたい。
 死んだら、トウヤに会えるだろうか?
 彼に許しを乞うことができるだろうか?

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