後書き


 本作に登場するキャラクターのうち、イヌネコの名前は、筆者の好きな文学作品よりいくつか拝借しています(人間のほうはいい加減です、同姓・同名の方ゴメンナサイ)。まず、スニッター&ローフ、これはかの『ウォーターシップダウンのウサギたち』の作者であるリチャード・アダムスが動物実験をモチーフに描いた『疫病犬と呼ばれて』に出てくる主役2匹の名です。次に〝お魚ちゃん〟、こちらはポール・ギャリコの『さすらいのジェニー』に登場するシャムネコの名前です(ちなみに、ジェニーはミオとリューイのモデルでもあります)。そして、ネタバレになるので名前は伏せますが、ウォーターシップダウンと並んで筆者の最も好きな動物ファンタジーであるタッド・ウィリアムズの『テイルチェイサーの歌』からも一ついただいています。興味のある方はぜひ手にとってみてください。なお、ファルコには実在のモデルがいます。わがままなきかん坊でしたが、とても芯の強い子で、寝たきりになっても長生きしてくれました。
 アジリティの場面について若干補足しておきます。各地のサークルが主催するアジリティは、通常タイムトライアルではなく、規定の時間をオーバーした場合にペナルティを課すことになっているところが多いようです。覚えるまでにも最低1ヶ月以上の練習期間が必要です。また、本作中では少年漫画的演出で強引に乗り切っていますが……やっぱり初心者シーズーが常連ボーダーコリーに勝つのはどう考えても無理があるニャー‥
 その他の捕捉。仔ネコの育て方について。人工哺乳が必要なのは、乳児期(生後大体一月以内)に母ネコの手から何らかの事情で離れてしまった場合です。自力である程度飲めるようなら小さいお皿やスプーンでもかまいませんが、スポイトで口の端から少しずつ与えたほうが飲ませやすいでしょう。母乳代わりに与える場合、イヌネコの初乳(母乳に含まれる抗体や必要な栄養素等を含んでおり、最近は大きめのペット用品店なら置いてます)を温めた牛乳や粉ミルクに溶いてやります(手に入らなければ卵黄を混ぜるというオーソドックスなやり方もあります)。成猫も牛乳は好きですが、やりすぎには注意しましょう(〝お腹ゴロゴロのお父さん〟と同様の理由です)。年齢に依らず、捨てネコを拾ったときは、信頼のおける獣医に感染症や寄生虫等の有無を検査してもらい、治療やワクチン接種を受けましょう。
 ネコとのスキンシップについて。お鼻であいさつはいわゆる普通のあいさつで、より親密度の高い相手、気分が昂揚しているときのあいさつは〝おでこでごっつんこ〟です(リューイ参照。ネコ好きには言うまでもありませんが‥)。シャイな子と開けっぴろげな子では使用頻度に差がありますが。(盲導犬・人畜共通感染症についてはブログ参照)
 この物語は、「イヌやネコとお話ができたら……」という、そんなだれもがこども時代に思い描く空想を一つの形にしたおとぎ話です。私たちのものの見方、感じ方は一人一人で千差万別です。それでも、私たちはお互いにさまざまな誤解や思い込みを抱えながらも、なんとかコミュニケーションを営んでいます。ニンゲンの持つ言葉は手っ取り早い意思疎通・情報流通の手段ですが、多くの行き違いを生んだり、ときには嘘もつきます。また、ニンゲンはとりわけ豊かな表情を持つ動物だとされ、それが万物の霊長の地位にまで登りつめた理由の一つだとも言われますが、自分以外の他人の心を知るのはとても難しいことです。ところが、イヌやネコと長く暮らしている方は、顔に出さないはずの心を読み取られてハッとした経験をお持ちの方も多いでしょう。いつもは体当たりでじゃれついて喜びを表現する子が、気持ちが沈んでいるときに限って決まってそっと寄り添うように励ましてくれたり……。実際、相手の心の機微を敏感に察知する点では、イヌやネコのほうがニンゲンよりずっと上手ではないでしょうか? 気持ちを通じ合うのに必要なのは、本当に大切なのは、〝言葉〟ではない──ヒト同士の間で当たり前のように受け入れられるフレーズですが、では動物たちとの間では? ヒトは、イヌやネコと同じ動物です。みな遺伝子の点から見れば毛ほどしか違わない、共通のルーツを持ち、たった一つの、たった一度きりの命を持ち、心を持った動物です。動物たちはそれぞれの種ごとに独特の社会の仕組み、個体同士のつき合い方がありますが(ヒトの持つ言葉もその一つなわけですが)、それでも心を通わせることができる──それはおとぎ話でもなんでもなく、まぎれもない事実なのです。
 イヌも、そしてネコも、近しい相手をとても気づかう動物です。ときには自身の苦しみや生死を越えてさえ。ニンゲンという動物は、「私がかわいそう」と言ってついわが身をかわいがってしまいがちですが、動物たちの深い思いやりを目の当たりにすると、彼らが私たちなど足もとにも及ばない高貴な存在に思えてくるのです。


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