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ミオ: +
千里: -

「なんだとぉ~っ!? ミオに限って断じてそんなことはないのだっっ!!」
 毎度のやりとりではあったが、ムカッときた朋也はとっさに声を荒げて言い返した。
 千里は眉をぴくっと動かしたかと思うと、腰に手を当てて一気にまくしたてた。
「おやま、たいした自信だこと……。そんなにニャンコにお熱をあげて、今に家出されて泣きを見ても知らないから! いい? 私は幼なじみのよしみで忠告してあげてるんですからね!? あんた、明けても暮れてもミオちゃん、ミオちゃんって、ネコのことしか頭にないの!? まったく高校生にもなってメスネコにしか興味持てないなんて、かわいそうったらありゃしない。そんなことじゃGFの1人もできないで、十代の貴重な青春を棒に振るわよぉ~? 大体ネコなんて、気分屋で、身勝手で、何考えてんだかわかんない動物のどこがいいのかしら? その点──」
 そう、〝命題〟とはほかでもない、ミオのことだ。朋也がミオといるのを見かけると、千里は途端に不機嫌になってつっかかってくる。最近は特にひどかった。2年前、ミオを拾った時には、別にネコ嫌いな素振りなんて見せなかったんだけどなあ。
 ともかく、ミオのかわいさがわからんとはけしからん。なんでこんなやつが男子生徒に人気があるんだかな? よく見ると全然たいしたことないじゃんか。ミオの方がよっぽど美人、いや美猫だぞ? ひょっとしてこいつ、ミオに妬いてるのかな??
 と、そのとき、2人の家の方角から「ワンワンッ!」という吠え声とともに灰色のかたまりが飛び出してきた。千里の周りを駆け巡ったと思うと、飛びついて顔をペロペロ舐めまわす。
「ジュディ!」
 さっきまで口を尖らせていた千里の顔が一転してほころぶ。
「ごめんね~、いい子にしてた? 寂しかったでしょ? もう試験も終わったことだし、今日はいっぱい遊ぼうね♥」
「ワンッ♪」
 彼女はジュディ、千里の子分というか相棒というか、まあ、実際のところ、このふたり(1人+1匹)の関係は母子か姉妹と表現する方が適切なのかもしれない。彼女も雑種だが、短毛のミオと違って長毛系が混じっている。やや巻きがかかったグレーの毛並みは、カーペットの上でおとなしくしていればそれなりの気品を醸し出したろうが、土の上を転げ回っている方が彼女にはお似合いだった。
 ジュディが千里の家にやってきたのは、朋也がミオを拾って2ヵ月もしない頃だ。つまり彼女も高校受験の真っただ中だったことになる。千里だったらもうちょっとランクの高い進学校も狙えたろうに、なんで同じ学校に通ってるのか不思議だったが、ひょっとしたら〝妹〟の養育とタイミングかぶった影響もあったかもしれない。
 ジュディはミオと違い捨て犬ではなく、千里の親戚の家で生まれた子だった。今では体力を持て余し気味だが、その頃は身体もいちばん小さい虚弱児で最後まで売れ残っていたのだ。まあ、ここまで元気に育ったのは、勉強そっちのけで面倒をみてきた彼女のおかげだとはいえるが。
「自分だって人のこと言えないと思うけどな~」
 朋也が聞こえよがしにボソッと一言漏らすと、千里はジロリとにらんできた。
「なんか言った?」
「べ・つ・にぃ」
 ジュディはひとしきり千里に甘えた後、今度は朋也とミオの方を振り向いて「くぅん」と鼻を鳴らし近寄ってきた。


*選択肢    よぉ♪    無視ッ

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