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8 ビスタ酒場の事件




 フィルに2度目の別れを告げ、一行はビスタの街を目指し北への道を歩き出した。
 肩を並べて歩くミャウとジュディを見ながら、朋也は思った。この2人は仲がいいんだか悪いんだかさっぱりわからないな……。ジュディは相変わらずミャウと話すときは怒ったような口ぶりが抜けないし、ミャウはミャウでジュディを小バカにしたような態度を隠しもしない。それなのに、さっきの作戦行動のときの2人は見事なまでにピッタリ息が合っていた。まさに阿吽の呼吸というやつだ。単に朋也の運動神経が2人に比べて低すぎたのかもしれないけど。まあ、2人のウマが合わないんじゃないかという当初の懸念がなくなったのは何よりではあるが……。
 それよりも、問題はマーヤのほうだった。いま彼女は他の3人の後ろを少し離れてトボトボとついてくる。クレメインの森の中ではいちばん口数の多かった彼女の口から漏れてくるのはため息ばかりだった。朋也としては、もう彼女をこれ以上問い詰める気はなかったし、そのうちきっと本当のことを打ち明けてくれると信じていた。でも、気まずい雰囲気を修復するには少々時間を要しそうだ。
「おい、マーヤ! 何やってんだよ。早く来ないと置いてくぞ!」
 声をかけたのはジュディだった。
「ねえ、ビスタの街のことなら詳しいんだろ? だったら、何でもいいから入る前に教えてくれよ?」
「あら、そんニャのこのチビに聞かニャくたってあたいが教えたげるわよ」
「うるさいな! お前の言うことなんかあてにできるか!」
「ニャンですってぇ!?」
 ジュディはジュディなりにマーヤのことを気遣ってくれたんだろう。義理堅いやつだ。でも、よかった……。
 マーヤはすぐに機嫌を直したようで、ビスタに関して彼女の知っている情報を一同に公開した。誰も話し相手になってくれないほうがこたえていたらしい……。
 彼女によれば、ビスタは各地へ至る街道の交差する要所で、エデンの中央大陸の東部エリアではいちばん大きな都市とのこと。もっとも、都市といっても、高層ビルが林立し自動車であふれ返るモノスフィアの東京やニューヨークのようなメトロポリスとは規模も趣も異なり、むしろ一時代前の宿場町のイメージに近そうだ。
街の特徴は、何より人口の多さと種族構成のバランスだ。すべての種族が平等に暮らすエデンでも、各地に散らばる町や村の人口構成は特定の種族に偏っている場合が多い。だが、ビスタのように人と物が行き交う大きな都市にはいろんな種族が集まり、いわば〝種族の坩堝〟と化しているのだった。
「おい、ミオ……じゃない、ミャウ! お前、あのゲドとかいう連中のこと知ってるって言ったよな?」
 ジュディがつっかかるように尋ねる。
「……まあ、あたいの知ってる連中かどうかは、もうちょっと様子を見ニャイことにはね」
 どうもミャウにはマーヤ以上に隠し事が多いように見えるな……。
「お前、協力するはずじゃなかったのかよ!?」
 2人のにらみ合いが続く。本当は仲がいいという見立てはやっぱり気のせいだったかな?
 なぜか今回はミャウのほうが先に折れた。
「メンバーは全員移民、イヌ族が中心で、あとネコ族も何人かいるみたいよ。彼らの狙いは……アニムス」
「ど、どういうことぉ~!? まさか、ニンゲンの真似をして今度はエメラルドを狙ってるっていうのぉ~!?」
 マーヤがびっくりして尋ねる。ミャウはただ肩をすくめた。
「それ以上のことは何とも言えニャイわ。裏づけが取れてニャイから。言っとくけどあんた、下手に上司に報告しようニャンて考えちゃ駄目よ?」
 マーヤをきつくにらみつける。マーヤは生唾をゴクリと飲み込んでブンブンと首を縦に振った。
「どうしてだ? そんな一大事なら、神獣にちゃんと話して助力を仰いだほうがいいんじゃないか?」
 朋也がそう意見を述べると、今度はミャウは彼をにらんだ。
「おバカさんね。紅玉の封印を解放した凶悪犯の子孫を、誘拐されたからって助けてくれると思ってるの? あんたは千里がどうニャッてもいいわけ? そのおチビさんは、あのキマイラがご親切にもあんたたちを戻してくれると考えてるみたいだけど、あたいはそれだってアヤシイと思うね……」
 ……。確かにミャウの言うとおりだ。帰れなくなるのは非常に困るけど。
「マーヤ、頼むよ。神獣には言わないで! お願いだから!」
 ジュディがマーヤにしがみつく。つい力が入りすぎたようで、彼女は目を白黒させた。
「ふぎゅぅ~~、は、離してぇ~~!」
「あ、ご、ごめん」
「ゼェゼェ……死ぬかと思ったぁ~~。ともかく大丈夫だよぉ、ジュディ。キマイラ様はまだ眠ってるんだしぃ」
「そうだったな。いずれにしても、目を覚ます前には片をつけないと」
「そういうことね」
 話をするうちにビスタへの入口が目に入ってきた。街の周りはぐるりと防砂林で囲まれている。入口には粗末な造りの守衛所が設けてあった。本来エデンには必要のない代物だが、モンスターの侵入を食い止めるためにやむを得ず置かれたということだ。
 守衛に顔を見られる前に、4人は一寸立ち止まった。
「さて、あたいたちは何の心配もニャく顔パスで入れるけど……問題は朋也ね」
「え? 何で俺が!?」
 びっくりして訊く。
「あんたは指名手配犯だもの。170年前の先祖がね……」
 なるほど……困ったな。そういえば──
「マーヤはどうするつもりだったの?」
 彼女は少し首をひねってから白状した。
「あたし、あんまり考えてなかったよぉ~。だって、朋也と千里だったらみんないい子だってわかってくれるって思ったんだものぉ~」
「甘いわね。ビスタはクレメインに近いだけにモノスフィアからの移民が特に多い街でしょ。ニンゲンを憎んでる連中には一目でバレて袋だたきにされるわよ」
 そりゃ、ますます困る……。
「どうすりゃいい?」
「そうねぇ……」
 ミャウは朋也の顔をしばらくじっと見やった後、ニヤリとしながら言った。
「変装しかニャイわね」
「へ?」
 素っ頓狂な声をあげる。それって──
「変装用具はあたいが先に街へひとっ走りして買ってくるわ。さあ、あんたはどの種族がいいの?」


*選択肢    ネコ    イヌ    妖精    ウサギ    サボテン    絶対やだ (注)

(注):選択により同伴者が決まるが、ミオはミオが暫定パートナー(好感度が最大)、ジュディは千里かジュディが暫定パートナー(好感度が最大)であることが条件。暫定パートナーが一致しなくても好感度は若干上がるが、マーヤの同伴になる。以降のシナリオは暫定パートナーが一致するものと仮定。


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