「ごめん、君の言うとおりだな。ここでジタバタしたところで始まらない……」
朋也はベッドのところまで戻ると、ミャウの隣に腰掛けた。うなだれて話を続ける。
「でも、千里がさらわれてからもう今日で3日目になる。ここにいなけりゃ、後はもうオルドロイに連れて行かれたのははっきりしてるけど……。ボスとかいう奴の率いる連中が彼女を誘拐した本当の理由はわかってないんだし、いつまで身の安全が保証されるものなのか……そう考えると落ち着かなくてね」
もしかしたら千里はユフラファにいた間、この地下牢に入れられてたんじゃないだろうか? そんな疑問が頭によぎったこともある。彼女はとても芯の強いタイプだけど、ジュディがそばにいないとなると話は別だ。きっと朋也自身が、ミオがいなくて寂しい思いをしている以上に、こたえているに違いない。
彼が話している間、ミャウは一言もしゃべらず、ただ冷ややかな視線を送っていた。
「あんたってそんニャに気が短かったっけ?」
「え?」
「ニャンでもニャイわ。こっちの話……」
言いながら、彼から目を逸らす。
「ま、ガールフレンドの一大事ともニャれば、居ても立ってもいられニャイんでしょうけど……」
彼女の台詞に当てこすりの意図が込められているのはわかっていたが、朋也はムッとくるよりむしろ後ろめたい気持ちに駆られた。
千里の命のほうが危ないという理由で、ミオのことをずっと後回しにしてきた。そもそも行方不明のミオを捜すのが第一の目的だったはずなのに、エデンに来てから一体どれだけの時間彼女の捜索に割いてきただろう? 未だにミオに関する具体的な手がかり1つつかめていないのは、自分が彼女の居所を知ろうと真剣に努力してこなかった所為なんじゃないか……。
「……ミオのこと、忘れたわけじゃないんだ」
「あたいに言い訳されてもねぇ」
冷たく突き放したような言い方をする。
そうだよな……。ミャウにとっては、千里も、そしてミオも、会ったことさえない赤の他人なんだし。それでも、彼女が協力してくれたおかげで、千里を取り返すまで後一歩というところまで来た。それなのに、彼女を巻き込んじゃったうえに、当たり散らしたりして……ほんとに情けなくなってくるな……。
ポケットに入れた指にミオの首輪が触れる。朋也はそれを取り出してじっと見つめた。エデンに来てすぐに発見した、彼女がこの世界に来ているという唯一の証拠。
ミオ……一体どこにいるんだい、お前は? もう丸3日以上、お前の姿を見てない。お前の声を聞いてない。毎朝、お前が起こしてくれて1日が始まって……早くお前の顔を見るために、放課後の鐘が鳴ったらダッシュで帰って……足元で缶詰を開ける俺のこと見上げるお前の顔をただ見たくて……ご飯が終わったら、お前はいつも膝の上に乗ってきて、2人でまったりとした時間を過ごすのが日課だったよな……。それがもう3日もお前に会えないなんて! 千里のことももちろん気がかりだ。でも、俺がいちばん心配なのは、やっぱりミオ、お前のことだったのに──
「……それは?」
「え? ああ、ミオの首輪だよ。こっちに来てゲートの側に落ちてたのを見つけたんだ。別にこんなものはめさせたかったわけじゃないんだけど……ほら、裏に住所と電話が書いてあるだろ? 万一どこかで事故に遭ったりした時、連絡がつくように、ね。こいつは枝や何かに引っかかったら絞まらずに切れるようにできてるんだ。だから、こっちに来てすぐはずれちゃったんだな。彼女はジュディと違って、来てすぐに成熟形態に変身してたのかも……」
ミャウは黙って朋也の話に耳を傾けていた。他人につれないいつもの表情は、心なしか和らいで見えた。
「……目の届かない所にいる時は、何やってるんだろう? 危ないことしてないだろうか?って、いつも気になってた。まあ、俺が心配したってしょうがないし、彼女には返っていい迷惑だったかもしれないけど……。実際、彼女は行きたい時に、行きたい所で、自由に遊びまわっていたもんな。もし……もし、ミオがこの世界で自分の本来の姿を取り戻して、自由に生きる道を選んだのだとしたら、俺は彼女の選択を尊重したい。もう俺の厄介になるのはゴメンだって思われちゃったんだとしたら、寂しくないといえば嘘になるけど……。でも、俺の手助けが必要になったら、その時はきっとミオの方から声をかけてくれると思うんだ。必要でなければ、それならそれでいい……」
しばらくじっと朋也を見つめていたミャウが、おもむろに一言尋ねた。
「ミオに……逢いたい?」