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12 作戦会議




 トラとゲドが立ち去った後、ユフラファの村人たちは朋也たちに非礼を詫び、村長の家に招いてありったけのご馳走を振る舞い、フカフカのベッドも用意してくれた。村長自身はトラにこけら落としのテープカットを依頼され、オルドロイ神殿の現場に出向いていて不在だったため、彼らをもてなしたのは村長夫人だったが。
 翌朝、一行は作戦会議を開いた。議題はもちろん、どうやって千里を救出するかだ。
「ねえ、バカイヌ。ベスってどういうやつよ?」
 ジュディは渋い顔をした。名前を聞くだけでもムカつくという感じだ。
「すっげーヤなやつだったよ。散歩のときだって挨拶も返さないでいばりくさってさ。街のイヌをみんな見下してたな。おまけに、飼い主の前だと他のイヌと仲良くしてるようなふりして威嚇したり、見てない隙に噛みついたりしてさ。ああ、でも──」
 そこで思い出したように付け加える。
「男の子と一緒にいるときはそうでもなかったけど」
 敦君か……。彼の家はニュータウン内でも朋也の家とは格の違う一等地にあった。父親は商社のマネージャークラスで、年に数ヶ月くらい海外にいることもあり、ベスを買ったのも1人息子が寂しくないようにという配慮からだろう。
 ただ、ベスは純血のゴールデン・レトリーバーで、ドッグフードは特注品、小屋もやたら大きくていかにも金をかけているという感じだった。ドッグショーに入賞したこともあり、それが敦君の自慢の種でもあった。公の場では審査に引っかからないよう、レトリーバーらしく他のイヌにちょっかいを出さず品行方正を装う辺りは、頭が切れるというか、抜け目がないというか、ジュディとはともかく性格的に正反対のタイプといえた。ベスが来たのは敦君が幼稚園に上がる前だったから、しつけに問題があったとしても少なくとも彼の所為ではなかったが。
 それに、最近の不景気で父親の会社は大きく傾き、その余波で家庭内にも不和が生じているという噂も立っていた。おかげで敦君はベスへの依存度をますます深めていたようだ。ベスが行方不明になったのはそんな折でもあり、朋也には敦君のことがとても不憫に思えた。
 いずれにしろ、ベスは性格が悪くて頭が回るうえに、トラをさし措いて組織の頂点に立っているからには、腕力の点でも彼と互角以上なんだろう。3人の落ち零れの面倒を見たり、ウサギ族との渉外役も務めたトラより相手にしやすいとは到底思えなかった。ブブの話では、組織を募って計画を立てたのも彼だというから、そもそも交渉が成立する余地すらなさそうだ。
 かといって、千里がオルドロイに移送されてしまったいま、彼女を奪還するつもりなら、ベスや取り巻きのイヌ族たちと直接対決することは避けられない。後の選択肢はトラに再挑戦することだが……今の朋也たちの実力では彼に勝てる確率はゼロに等しかった。
 生贄の儀式があるのは4日後の晩だが、オルドロイへの行程を考えると、残された時間は実質あと3日しかない。その期間に彼に必勝する対策を考える必要がある。
「どう? みんニャ、何か思いついた?」
 クルルが発言を求める。
「クルル思うんだけどさ、やっぱり健康が第一だよね! ユフラファは野菜が特産で、方々の町に出荷してるんだけど、身体にとってもいいって評判なんだ♪ せっかく村にいることだし、みんなにも協力してもらって、採れたての野菜を使った特製メニューで鋭気を養うのはどう? 食事の間は土いじりでもしてればいいしさ」
「あたいとしては、できればその案は勘弁して欲しいけどね(--;; 誰か他には?」
「そうねぇ……いまちょっと思い出したんだけどぉ、ビスタの収容センターに特殊な筋力回復用のリハビリコースがあったわぁ。今は使われてないはずだし、この際非常事態だから一式借りちゃおうと思うんだけどぉ、どうかしらぁ?」
 続いてマーヤが提案する。
「それって避難民の動物用なんだろ? 勝手にそんなことしていいの?」
「任せてぇ。あたしセンターでは一番の古株で、本当はヒラの職員なんだけど、影の所長って言われてるのよぉ~♪」
 影の所長ねぇ……。万年ヒラなのはそれが理由なんじゃないのか?
 腕組みしていたジュディが立ち上がり、机をバンとたたいた。
「みんな甘いよ! トラの戦いぶりを見ただろ!? そんな生温いことしてたんじゃ、あいつに勝てっこなんかない! ご主人サマを助けるには、やっぱり特訓しかないよ!!」
「たった3日ばかりでたいした成果が上がるとは思わニャイけど」
「だったら、ただの特訓じゃなくて、死に物狂いで猛特訓すればいいんだ!」
「……。あんた脳ミソまで筋肉でできてるんじゃニャイの?」
 呆れた声で言うミオに、ジュディが迫る。
「お前、そんなこと言うなら、なんか代案出してみろよっ!?」
「そうねえ……残念ニャがらこれといった名案はニャイけど、最短期間で最大の効果を引き出せる堅実な方法はあるわ。鉱石を集めるのよ」
「鉱石? 何だよ、たいした案じゃないじゃんか。そんなことして何になるってんだよ?」
「まず第1に、鉱石を手に入れるにはモンスターを倒さニャくちゃニャらニャイ。それだけでも、戦闘訓練にニャる。第2に、鉱石は魔力のストックとして必須だし、所持してるだけでスキルの成長率もアップするわ。第3に、鉱石は高い値で売れる。換金して性能のいい装備とアイテムを購入できるわ。一石三鳥ってわけ」
 なるほど。ミオはやっぱり天才だなあ、と感心する朋也であった。育ての親としても鼻が高いや。
「で、朋也は?」
 みなの注目が集まる。4人の提案を感心しながら聞いて頷いていた朋也だったが、彼自身は何も思いつけなかった。面目なさげに頭を下げる。
「ごめん」
「やれやれね……。じゃあ、どの案でいくか、あんたが一番いいと思うものを選んでちょうだい」
「う~ん……」


*選択肢    クルル    マーヤ    ジュディ    ミオ    フィルに会いにいく (注)

(注):それぞれエンディングフラグ。


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