私は呆然とその場に立ちすくんだ。
目の前に、人がうつ伏せに倒れている。
サフラン色のセーラー服を着た女の子。そのスカートの裾をべったりと赤黒く染め、アスファルトの上にまで流れ出しているのは……血だ。
女の子はピクリとも動かない。
あのセーラー服の色は、私の通っている小桑野中だ。ショートに短く切りそろえた髪は、私みたくほとんどおかっぱに近い。年のころは一四くらい、私と同じ。
私にそっくりの女の子? 違う。
あれは私だ。
悲鳴をあげようとした。でも、口からこぼれ出たのは、「ミャー」というか細い鳴き声でしかなかった──。
私の名前は神山栞、陸上部でハードルに打ち込む元気いっぱいの中学二年生。同じ陸上部に所属する美夏ちゃんとケンカした日の帰り道、一匹の猫を助けようとしてトラックに轢かれちゃった……。
気がついたら私は猫の姿に。パニクる私を助けてくれたのは、リューイという名の黒猫だった。
ネズミを運んでこられて悲鳴をあげたり、集会に参加して他の猫たちに紹介してもらったり、二匹で〝ハードル〟を楽しんだり……。
猫の社会、猫の心について、いままで知らなかったことを学びつつ、私は人間だった日々を過去のものとして、新しい猫生を送る決心を固めつつあった。
だけど、ある日、部活もやめてぼんやりブランコを揺らしている美夏ちゃんを発見、私の心は揺れ動く。
そんな私に、リューイは魂を分けた弟リムのこと、そして、命と引き換えに奇跡をもたらす《カギ》のことを打ち明けた──。
中学生の少女と黒猫との切ない猫流ラブ・ストーリー。